江戸期以降の土木史跡の地盤工学的分析・評価に関する研究委員会(土木史跡委員会)は,3年間の研究委員会とその後1年の広報委員会活動を2015年3月に閉じる。土木史跡委員会は会期中の2012年9月に,230名以上の一般市民が参加した見学会と講演会(明治からの軍事遺構は語る〜横須賀市の第三海堡と貝山地下壕〜)を実施し,2014年10月には最終成果報告会と30編の一般投稿論文によるシンポジウム(土木史跡の地盤工学的分析・評価に関するシンポジウム)を開催した。一般投稿論文の内訳は,委員会メンバー以外の内容が24件(73%)であり,地盤工学会会員以外の発表が18件(55%)と半数以上を占めた。ATC-19(地盤遺産・遺跡に関するアジア地域国際地盤工学委員会)の協力で2つの海外からの論文に加え,文化財としての遺跡保存,史跡認定,防衛的施設の配置やその調査事例等のいわゆる人文系の発表も10件(30%)含まれていた。これらは,地盤工学会が主催するシンポジウムとしては,総てに異例であり,地盤工学会が今後指向する方向性の一端を強く暗示している。
横須賀市は,横須賀製鉄所創設150周年記念事業の一環として,土木史跡委員会の研究成果を広く市民に紹介する講演会を地盤工学会関東支部との共催で2015年8月8日に予定しており,具体的な内容の検討段階にある。この講演会は,以下の理由で今後の地盤工学会の“歴史遺産研究”活動の大きな出発点と位置付けられる。すなわち,上述のように,この分野の研究が地盤に係わる専門家や広く一般市民の関心事であることに加え,歴史的構造物(遺跡)は,過去の建設技術のみならず,社会システムや文化等に関する情報を現代に遺す人類の遺産であるにも拘らず,体系的な地盤工学研究や市民への広報活動が充分でないことによる。土木史跡委員会が研究対象の一つとした猿島砲台と千代が埼砲台が近代歴史遺産(軍事施設)として初の国史跡の指定を受けることが決まり,国の文化財行政も大きく変遷している状況下にある。地盤工学会としては,学術的な調査・研究の中でこのような国の施策に追随できる対応も必要である。
提案する検討委員会では,以下の内容に関して,地盤工学会の役割や研究委員会への発展の可能性を検討する。関東地域には多くの地盤工学遺産が残存していることから,関東支部の検討委員会としての集中的な委員の編成と検討が,最大限の成果を約束することになる。
|