市民参加フォーラム~茨城県の液状化を考える~開催報告

地盤工学会関東支部 茨城県グループ
安原 一哉(茨城大学名誉教授)

 去る、平成26年3月8日、地盤工学会関東支部茨城グループ、土木学会関東支部茨城会、日本地質学会関東支部、日本建築学会関東支部の共催、日本地震工学会の後援を受けて、茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS)の環境リサーチラボラトリーにおいて,標記のフォーラムが開催された。参加者は関係者を除いて92名であった。プログラムは以下の通りである。
<前半セッション:司会:本田尚正(茨城大学理学部)>
13:00-13:10 開会の挨拶 茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS)機関長 三村信男
13:10-14:10 基調講演“茨城県を中心にした関東地方の液状化と今後の対策”
東京電機大学 教授 安田 進
14:10-14:30 “液状化データベース”の紹介
乾康代(茨城大学教育学部教授)&中村健太郎(NPO GIS総合研究所いばらき)
14:30-14:45 休憩
<後半セッション 司会:茨城大学ICAS 安原一哉>
14:45-16:00 被災市町村の取り組みの現状
・ひたちなか市の現状と課題 渡部拓哉(ひたちなか市都市計画課工務係主任)
・鹿嶋市の現状と課題 菅谷 毅(鹿嶋市都市計画課課長補佐)
・稲敷市の現状と課題 黒田佳宏(稲敷市都市計画課主査)
・神栖市の現状と課題 大槻幸彦(神栖市都市計画課課長)
・東海村の現状と課題 大山丈吉(東海村建設水道部みちづくり課主幹)
16:00-17:20 パネルディスカッション ”液状化に打ち勝つために“
パネリスト:
・安田 進(東京電機大学教授)
・若松加寿江(関東学院大学教授)
・黒田佳宏(稲敷市都市計画課主査)
・大山丈吉(東海村建設水道部みちづくり課主幹)
・渡部拓哉(ひたちなか市都市計画課工務係主任)
・菅谷 毅(鹿嶋市都市計画課課長補佐)
・橋本隆雄((株)千代田コンサルタント 事業統括本部防災対策室室長)
・池田美穂(神栖市都市計画審議会副会長)
17:20-17:30 閉会の挨拶 茨城大学工学部准教授 村上 哲
フォーラムの冒頭に,2011年3月11日以後,関東地方における液状化の解明と対策に奔走されている安田進教授にわかり易い内容の講演をいただいた。
本フォーラムの特徴は.単に技術者集団による集まりではなく,どちらかというと,行政の関係者を中心にしたフォーラムを目指した。とりわけ、現在、茨城県の5市町村が取り組んでいる液状化対策と今後の方向性に焦点を当てたところが多くの方が集まっていただいた理由ではないかと考えている。また,併せて,産官学で一緒に考える、という方針にも重点を置いた。そのためか、行政の報告者やパネリストも、日ごろの鎧を取っ払ってざっくばらんな話をしていただいた。
お陰様で,パネリストからは勿論,フロアーからも,司会者が交通整理に困るくらいに,次々に手が挙がり,文字通りのフォーラムらしい催しになった。
本フォーラムで取り上げた対策では,便宜上、ハードとソフトに分けて議論を行ったが,ハード対策としては,地下水位低下工法と格子状地盤改良工法を中心に議論が進み,ソフト対策としては,モニタリングやハザードマップの在り方,それに,住民への情報公開を目指して,茨城大学が取り組んでいるデータベースをハザードマップ作りにどう取り込むか,などが議論された。
ここで取り上げたことが,地震時液状化による多大な被害を受けた宅地造成地の復興対策という,今までにほとんど経験のない困難な問題であるので,当然のことではあるが,課題も浮き彫りになった。例えば,
1) 地下水位低下工法においては,広域的な水の流れを考えたモニタリングが長期にわたって本当に可能か?
2) ハザードマップ作りは各市町村に任されているが,それでよいのか?少なくとも,想定地震動くらいは統一した方がよいのではないか?などが挙げられる。また,今回の報告は,復興交付金の援助を受けた、または,受けている市町村に限られたが,
3)不幸にして,経済的援助が受けられなかった市町村に対しては,なにか手立てを講じることはできないか?
という点も課題として残されている。難しい問題であるが,議論の余地のある課題と思われる。
フォーラム終了後、事前に配布したアンケートを回収した。アンケート内容は以下の通りである。
Q1 本シンポジウムを何でお知りになりましたか?(複数回答可)
□事務局からの案内状・メール □ポスター □チラシ
□ホームページ □その他ウェブサイト・SNS( )
□知人からの紹介 □学会のホームページ(:学会名 )
□その他( )
Q2 本日のシンポジウムについては全体的に、どう感じられましたか?
□大変良かった □良かった □普通 □良くなかった □大変悪かった
Q3 上記のように答えられた理由をお書き下さい。
Q4 どのセッションが最も興味深かったですか?
□基調講演 □データベース紹介 □市町村の現状報告 □パネルディスカッション □特にない
Q5 その理由を教えてください。
Q6 本学の「液状化データベースの紹介」はどうだったでしょうか?
□良かった、□良くなかった、□よくわからない、□もう少し改善した方が良い
Q7 良かった点あるいは改善すべき点はどんなところでしょうか?
Q8 その他、フォーラムへのご意見、ご感想、今後取り上げて欲しいテーマ(「例えば、津波、地震災害、自然災害対策や気候変動気候変動対応策」など)に関するご要望などがあれば自由にお書き下さい。
アンケートに対する回答は参加者のほぼ半分の46名から得られた。内容は,茨城大学が取り組んでいるデータベース(URL:http://sdjgis.iobb.net/liquefaction/)の目的や意義については十分な理解が得られていないせいか,多くは,“良くわからない”という評価で,今後、改善していく必要性を強く感じた。
一方,安田教授の基調講演は,“分り易かった“など,大変好評であった。各市町村の液状化対策の取り組みの現状の紹介やパネルディスカッションンも概ね良い評価であった。
アンケートの項目のうち,大事なことが抜けていたことに後になって気がついた。それは,5市町村(ひたちなか市,鹿嶋市,稲敷市,神栖市,東海村)の被害の実態に関するパネルと、東北・関東地方全体と茨城県における液状化調査結果をまとめた関東学院大学・若松加寿江教授と防災科学技術研究所・先名重樹客員研究員によるパネルの展示(平成26年2月6日 読売新聞朝刊掲載分、写真-2)に関して参加各位の意見や感想をお聞きするのを失念してしまったことである。ご提供いただいた関係者には,この場を借りて深くお詫び申し上げる。
このような不手際はあったものの,アンケートにみられる参加者の感想や今後のご要望には,例えば,
・行政の努力が理解できた
・双方向の議論があってよかった
・Part 2 があってもよいのではない?
などなど,建設的な意見が多かった。有難く受け止め,今後に生かしていきたいと考えている。
最後になったが,本件の企画については,基調講演をいただいた安田進教授,各市町村の関係各位やパネリストを快く承諾いただいた方々のご協力によるところが大きい。また,茨城県土木部都市計画課の久家技佐他の皆様には,県内の情報交換会に出席をさせて戴くなどの便宜を図っていただいた。
また,本フォーラムは,平成24年度及び25年度の茨城大学震災復興支援プロジェクト(研究代表者:理学部・本田尚正准教授)の援助をいただいた。ともに付記して深甚の謝意を表する次第である。
なお、今回のフォーラムの Proceeedings は,茨城大学地球変動適応科学研究機関(ICAS)のHP http://www.icas.ibaraki.ac.jp/
からダウンロードできるので,都合により,ご参加できなかった各位には,ダウンロードしてご一読の上,ご意見やご質問があれば,icas-honbu@ml.ibarakiac.jp までお寄せいただければ幸いである。 (2014.3.11).

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                  写真-1 立ち見が出来るほどの安田進教授の講演

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                  写真-2 ポスター展示(若松加寿江教授(関東学院大学)&
                     先名重樹博士(防災科学技術研究所)による)