関東支部 栃木県グループ
1. はじめに
栃木県グループが関東支部創立10周年の事業の一環として,宇都宮市と共催で,シンポジウムを開催しました。栃木県宇都宮市の大谷町周辺では,大谷石(軽石火山礫凝灰岩)を産出し,公益社団法人地盤工学会関東支部創立10周年記念OHYA UNDERGROUND SYMPOSIUM実行委員会を栃木県グループと宇都宮市経済部産業政策課大谷振興グループで構成し,栃木県,宇都宮大学,(公財)大谷地域整備公社,大谷石材協同組合,大谷石内外装材協同組合,(公財)とちぎ建設技術センター,宇都宮商工会議所,NHK,下野新聞社,とちぎテレビ,栃木放送,エフエム栃木,栃木県地質調査業協会,(公社)土木学会関東支部栃木会から後援を得て,平成25年11月5日に開催しました。午前中のシンポジウムには203名の方々に参加して頂きました。また,午後のサイトツアーには約50名の方に参加をして頂きました。このたびのシンポジウムは,地盤工学に特化した内容のシンポジウムではないので,その主な参加者は,地盤工学会や土木関連よりもイベント,流通関係および一般の方々でした。
図-1 シンポジウムポスター
2. シンポジウムの準備について
このシンポジウムを実施する目的は,宇都宮市大谷地域の価値を多くの方に再認識して頂き,起業を希望する方にはその魅力と可能性をお伝えすることにありました。このシンポジウムは,昨年度の宇都宮大学教育学部陣内研究室が主催し岩盤工学研究室が共催した「Oyaマチヅクリ★イベント」(平成24年11月18日開催)を拡大し,より多くの方に大谷の魅力を知って頂くために開催したものです。まずは,淡い色合いの大谷石の優しいイメージを大切にするために,シンポジウムのネーミングから,周囲の多くの方に相談しながら,企画を進めました。大谷「おおや」は通常,道路標識の道案内や地図などのローマ字表記では,「Oya」と表示されていますが,「OH!」とかけ声で元気を出すことを狙い,「Ohya」と表記を工夫し,真新しさをアピールために,「OHYA UNDERGROUND SYMPOSIUM」というネーミングになりました。また,大谷と言えば,大谷資料館が観光地として有名で,2011年東北地方太平洋沖地震以降,閉館しておられましたが,平成25年5月に営業を再開されました。宇都宮市の方からこの資料館の所有者に交渉して頂き,広大な地下空間を体験して頂く中で,シンポジウムを開催することが実現しました。この開催に際しまして,県内各機関への広報は,宇都宮市や後援団体に実施して頂きました。広報に力を入れる意味で,ポスター(図-1)やフライヤーをデザイナーに依頼してデザインをして頂きました。
シンポジウムの開催方法を検討し,基調講演とパネルディスカッションを午前中に開催し,午後は、大谷町の中で,現在大谷採石場跡の活用を試みている場所をバスで廻ることとしました。基調講演は,京都大学名誉教授で,現在関西大学特任教授の大西有三先生に講師をお願いしました。また,パネルディスカッションは,宇都宮大学教育学部教授の陣内 雄次先生をコーディネーターとし,大西先生,足利工業大学教授の中條祐一先生, 宇都宮大学農学部名誉教授の志賀 徹先生,(㈱ファーマーズ・フォレスト代表取締役社長の松本 謙様の4名をパネラーにお迎えして実施することにしました。シンポジウムの開催準備および運営は,宇都宮市経済部産業政策課,栃木県地質調査業協会,栃木県グループおよび宇都宮大学の学生で実施しました。
写真-1 地上で行われた受付風景 写真-2 リーダー幹事 西村友良先生の挨拶
写真-3 宇都宮市長 佐藤栄一氏による挨拶
写真-4 ゴスペルグループのヘブンズジョイによるパフォーマンス風景
3. シンポジウムの準備について
当日は晴天に恵まれ,大谷資料館の入り口前の屋外に受付を設け,各種案内を行いました(写真-1)。シンポジウムは,大谷資料館の採石場跡を活用した広大な地下空間の一部をお借りして実施しました。栃木県グループリーダー幹事の西村友良先生(足利工業大学 教授)に主催者からの挨拶を頂きました。この挨拶の中では,フランスの地下空間を活用した温熱利用の事例などを紹介して頂きました(写真-2)。続いて,共催代表者からの挨拶として,宇都宮市市長 佐藤栄一様から宇都宮市における大谷の街づくりと市政の関連を紹介して頂きました(写真-3)。その後,栃木県内を中心に活発な活動をしておられるゴスペルグループのヘブンズジョイに歌を披露していただきました(写真-4)。総勢38名の女性で構成されるグループによる元気で活発な歌声が,大谷資料館の地下空間に響き渡り,会場を和やかな雰囲気にしました。
4. 基調講演:地下空間の特性と可能性について
大西有三先生からは,地下空間の特徴と海外や国内から見た地下空間の利用状況,また,大谷で期待される地下空間利用の在り方について,ご講演を通して意見を頂きました(写真-5)。我が国は地下水位が海外に比べて高い傾向にあることから,地下空間利用が海外に比べて活発ではないですが,複雑な地形・地質また,地震国であることから、地下空間建設技術が優れていることが説明されました。地下空間を活用するには,その目的を明確にすることが強調され,大谷の場合,その魅力を高めること,また地下空間に関する情報を発信することが重要であることを学ぶことができました。遠くても見たいもの,楽しみたいものがあれば,人は集まるという実例も示していただきました。成功例などを参考に,大谷の将来を明るいものにできるように,市内外の方に興味を持っていただけるような観光資源が必要であることが強調されました。大西先生のお話に参加者は熱心に耳を傾けていました(写真-6)。
写真-5 大西先生の基調講演の様子 写真-6 講演の聴講風景
写真-7 パネルディスカッションの様子 写真-8 パネルディスカッションの終了風景
5.パネルディスカッション:大谷採取場跡地を軸とする地下空間の可能性
基調講演に引き続いて,岩盤・地下空間利用,エネルギー,食糧保存,事業化の視点から,大谷の活性化に求められることについて意見を頂きました(写真-7)。まず,中条先生,志賀先生,松本様から,それぞれの研究および仕事内容,大谷での取り組みあるいは取組案について,発表して頂きました。その後,大谷を活性化するための意見交換を行った後,4名のパネラーから,大谷に求めることを一フレーズで表現して頂くことで,まとめとし,終了した。この時,パネラーからは,「大谷の魅力」,「らしさ」,「大谷ブランドをつくろう」,「枠を超えた発想で」の言葉が示されました(写真-8)。
写真-9 学生による研究発表の様子 写真-10 パネル展示の様子
写真-11 大谷採石場跡地に向かう参加者 写真-12 地下空間に溜まった水を利用したカヤック
6.学生による研究事例紹介とアンケートの実施およびパネル展示
宇都宮大学岩盤工学研究室と教育学部陣内研究室の学生により,研究室で実施している研究内容の概要を紹介し、大谷の採石場跡地を有効利用する視点から有効な施設や地下空間に対するイメージを問うアンケートを実施しました。また,教育学部陣内研究室から,UFC(宇都宮未来クラブ)とともに行っている大谷のまちづくりの試みについて,概要を説明して頂き,シンポジウム参加者にこの取り組みに対する意見をアンケートで確認していました(写真-9)。
会場の一部を用いて,栃木県立宇都宮工業高校や(公財)大谷整備公社による大谷に対する測量,維持管理の試みやLLP(有限責任事業組合)チイキカチ計画によるカヤックを活用した起業の試みについてポスターやパネルで紹介されていました(写真-10)。
午前中のシンポジウムの締めくくりとして,ゴスペルグループのヘブンズジョイに再度登場して頂き,改めて,素晴らしい歌声を大谷資料館の地下空間に響かせて頂きました。
写真-13 冷熱を使ったいちご栽培のビニールハウス 写真-14 ビニールハウスの夏季いちご
7.テクニカルツアー
昼休みには,食事も地産地消型の食事を城山地区農産加工場や滞在体験型のファーム「道の駅うつのみや ろまんちっく村」から販売して頂きました。昼休みをはさんで,ろまんちっく村からバスをお借りして,大谷内の起業への試みを見て頂くテクニカルツアーを実施しました。これは,宇都宮市経済部産業政策課が主体になって企画実施がなされ,参加者にはヘルメットなどを貸与し大谷石の採石跡に直接入って頂きました(写真-11)。体験型観光施設を企画しているLLPチイキカチ計画には、地下に溜まった水の水面をカヤックなどで楽しむ企画(写真-12)を,保冷倉庫(日本栄養給食協会)には,採石場跡での食材の保冷状況を,大谷夏いちご研究会には,空洞内に溜まっている地下水の冷気を活用し,収穫時期を遅らせて,いちごの商品価値を高める大谷夏季いちご栽培の試み(写真-13,14)を見学する機会を提供して頂きました。参加者には,大谷における宇都宮市の試みについて興味を持っていただき,大谷再生のためには,企業の誘致が必要不可欠であることを知って頂きました。
8.おわりに
このたび,関東支部創立10周年の事業の一環で,栃木県グループと宇都宮市経済部産業政策課の協力で,シンポジウムを盛会のもとで終了することができました。大谷石を産し,無数の採石跡の地下空間を擁する宇都宮市大谷町周辺の地域の魅力を多くの方に知って頂くとともに,地元の方々にその魅力を再認識して頂きました。今回は大谷活性化のために企業誘致も目的とし,地盤工学会としては従来の活動と趣向の異なるシンポジウムの開催となりましたが,異分野の方に地盤工学を広く知って頂く方法として新たな試みになりました。今回のシンポジウムは、多数の方,特に企業の方に参加頂けたことから,大谷町周辺地域に対するイメージの向上を計ることに貢献できたことと思います。(文責:清木)
平成25年11月6日 下野新聞朝刊 21面掲載 平成25年11月7日 日刊建設新聞(栃木版)第 2面掲載