平成25年度 地盤工学会関東支部栃木県グループ
盛土・擁壁と切土・自然斜面の自然災害
災害事例と設計・補強・復旧に関する勉強会 実施報告

地盤工学会関東支部 栃木県グループ

 1.はじめに
栃木県グループの本年度の勉強会は,盛土・擁壁と切土・自然斜面の災害を対象に勉強する機会を設けました.2011年東北地方太平洋沖地震で,栃木県内では土木構造物ならびに盛土・擁壁と切土・自然斜面に被害が見られました.地震による被害を最小限にする具体的な対策を防災・減災の観点に立って進めて行く必要があります.例えば既存の盛土・切土の維持管理の在り方や今後これらの土構造物に求められる性能評価などについて理解を深める必要を切に感じました.そこで,地盤工学会関東支部 栃木県グループ主催,公益社団法人 土木学会関東支部栃木会,栃木県地質調査業協会の2機関からの共催,公益財団法人 とちぎ建設技術センターおよび栃木県土木施工管理技士会からの後援を得て,地盤工学会の本部で開催され,好評を博した「盛土・擁壁および切土・斜面の自然災害の講習会」の内容についてご講演を龍岡文夫 先生(東京理科大学教授・地盤工学会元会長)と田山 聡 様(㈱高速道路総合技術研究所 道路研究部土構造物研究担当部長)を講師としてお招きし,災害事例とその強化復旧に対する勉強会をとちぎ男女共同参画センターで開催しました.この勉強会の聴講者は49名でした.

2.盛土・擁壁の自然被害(地震,豪雨,洪水,津波)の耐震設計・耐震診断/耐震補強・強化復旧について
龍岡先生に,「地震と豪雨・洪水による地盤災害を防ぐために-地盤工学からの提言-」と「地震時における地盤災害の課題と対策 2011年東日本大震災の教訓と提言 (第二次)」をテキストとした内容を非常に限られた時間で紹介して頂きました(写真-1).講演は,まず,はじめに,2011年東北地方太平洋沖地震の際に発生した地盤災害について,液状化と斜面崩壊を中心に発生事例を写真で示しながら,その発生メカニズムの図を織り交ぜながら丁寧に説明をして頂きました.今回の震災前に液状化が起こる可能性が確認されていた地域が今回の震災でどうであった触れられ,今回液状化した箇所は,事前に液状化が発生すると予測されていたところは,予測を外れて液状化を起こさなかった箇所がありましたが,予測手法としては概ね良好であることが説明されました.またこれに加えて,液状化の対策工を関東支部の委員会で検討している状況が説明して頂きました.一方で丘陵宅地の被害などを俯瞰して,地盤の締固め不足と擁壁の構造的な弱点について強調されました.これに対してジオテキスタイルを用いて地盤を補強する工法を適用することで,問題解決の可能性が示されました.また,別の事例として,鉄道などの軌道の盛土の補強についてもその改良効果とともに示され,今後自治体などで適用事例が増えることが期待されます.強化復旧に際して,構造物を補強する際,費用を安く高い効果を得るための研究成果であることを強調されたことが印象的であった.また,地盤品質判定士などの資格制度が整備され,宅地の地盤情報の機能や性能の安全性について検討されることによって,今まで以上に品質が良い宅地を安く入手できる可能性について,説明が加えられました.聴講者は,熱心に先生の講義を聴講して居ました(写真-2) .聴講者の中から,河川中流域におけるスーパー堤防の役割について質問が出ました.

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写真-1 龍岡先生の講演風景 写真-2 勉強会の様子
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写真-3 田山様の講演風景

3.高速道路における切土・自然斜面の災害と復旧事例
つづいて,田山様に,高速道路における切土・自然斜面の災害と復旧事例と題して,高速道の斜面災害(地すべり,斜面)の素因,誘因などを紹介して頂き,貴重な事例とその素因,誘因とその対策について,解説をして頂きました(写真-3).まず,はじめに,高速道路に発生している土砂災害とその災害が高速道路の車の通行に与える影響を整理した結果を説明して頂きました.当たり前のことですが,その8割が道路交通に影響を与えないとの結果が示されました.残り2割の道路交通に影響を与える土砂災害は,切土が77%,盛土が12%であり,道路供用後の切土の維持管理が重要である様子が伺われました.切土斜面は,地質的な素因の影響が大きく,すべり面やすべり土塊の想定が重要であることを強調されました.また,誘因としては,降雨の影響が大きいことに言及され,災害復旧の考え方として,災害が発生した場合は,第三者への被害を最小限にとどめ被害の拡大を防ぐとともに,交通の早期確保に努める必要があると定義づけられていることが強調されました.また,この災害復旧を行う場合も緊急対策,応急対策,本対策に区分され,その対策の一般的な流れとして,災害発生後,交通規制,緊急対策,応急復旧,交通解放,調査・設計,本復旧の実施体制についてわかりやすく説明して頂きました.伺った話の中から,道路供用中,自然地盤に現れる変状を対象に,日々的確な対策工を選択して施工して居られる苦労をご披露頂きました.聴講者からの質問として,具体的な対策工の内容や,変状に対するモニタリングなど,非常に具体的な内容について対応が望まれた.
4.おわりに
栃木県グループでは,本年度は本部の講習会などのコンテンツを題材として,栃木県が東日本大震災の被災県であることを再認識して,地盤災害の減災をすすめるためにも切土や盛土の減災に対する最新の知見と事例紹介を龍岡文夫先生と田山聡様に実施して頂きました.聴講者にとって,2011年東北地方太平洋沖地震に伴う震災を目の当たりして以来2年が経過したが,この被害と復旧への苦労を風化させないために,液状化や宅地斜面の崩壊に対する事例紹介とその予測,対策の考え方も強調して頂きました.今回の勉強会の様子は,日本工業経済新聞栃木県版(9月20日号)および日刊建設新聞栃木県版(9月20日号)に掲載され紹介されました.
栃木県グループでは,今後も会員に留まらず,多くの方に地盤工学に広く興味を持たれるテーマを模索し,県内は当然ながら,それ以外の地域の地盤技術者の方々にも喜んで参加して頂けるようなイベントの提案および開催を心がけたいと思います. 文責:清木

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