公益社団法人 地盤工学会 関東支部
関東地域における地盤情報の社会的・
工学的活用法の検討委員会
1.はじめに
関東支部から書籍「関東の地盤(2010年度版) -地盤情報データベース付-」を2010年度に出版致しました。この研究成果を継続させて,関東支部 関東地域における地盤情報の社会的・工学的活用法の検討委員会(龍岡 文夫委員長,以下,関東地盤DB委員会)では,関東地域の地盤情報データをさらに充実させ,各都県主要都市の地盤モデルを構築・追加するための活動を行っています。また,この地盤モデルを生かして,関東地域の各都県の地盤の特徴を明らかにするとともに,防災に役立つ情報を提供することを目指しています。委員会における研究成果を役立つ書籍としてまとめるために,執筆の方向性と内容を広く会員に説明して,意見を聴収し,より読みやすくすることを試みています。このために関東地盤DB委員会では,関東8都県に関連した執筆内容について,2回に分けてワークショップを開催し,広く意見を聴取することを試みました。本報文では,実施結果を報告致します。
2.ワークショップの実施状況
下記の日程で,ワークショップを2回開催しました。
第1回:平成24年4月27日(金) 13:00~17:15
第2回:平成24年5月24日(木) 13:00~17:15
いずれの場合も,地盤工学会の地下会議室を会場として実施しました。このワークショップは,広く会員,一般の方から,書籍執筆に関して意見を頂くだけでなく,関東地盤DB委員会に位置付けて,委員間での執筆作業に関する意見交換を行うことを目的に実施しました。関東地盤DB委員会は,総勢24名の委員が,WG1(地盤モデルWG)からWG4(ソフトウフェアWG)の四つのWGに分かれて活動をすすめています。ワークショップの参加者は,第1回目36名,第2回目32名でした。これらの2回のワークショップの司会は,WG3(本文執筆WG)主査の後藤 聡先生(山梨大学)にお願いしました。
図-1 龍岡委員長の挨拶(4月27日) 図-2 参加者からの質疑の様子(4月27日)
2.1 第1回ワークショップ
(1) はじめに~地盤情報データベースの意義と東日本大震災とその対応概説~:関東地盤DB委員会委員長龍岡文夫先生(東京理科大学)に挨拶を兼ねて,委員会活動の背景および方向性について,説明して頂きました。まず,委員会活動を説明する前に,「地震時における地盤災害の課題と対策 2011年東日本大震災の教訓と提言(第二次)」の内容を例に挙げて,提言や内部に掲載されている東日本大震災やその他の災害に伴い災害とその対策に対して,地盤情報との関連を説明して頂くとともに,これらの情報を完備する意義を海外出張への出発間際の貴重な時間を割いて示して頂きました(図-1)。
(2) 新版「関東の地盤」の編集方針の概要:WG3(本文執筆WG)の副主査 清木の方から,関東地盤DB委員会のこれまで2期の委員会活動と,委員会の委員構成,WG構成について,はじめに説明を行いました。その後,この度出版をする予定の書籍について,目次案と各節の内容の素案について解説しました。特に,2010年度版と異なる観点として,WG2(データ収集・維持・管理WG)で収集したデータをまとめてデーターベース(DB)として公開するだけでなく,地盤情報データを活用した地盤性状を確認するとともに,各都県の主要都市の一部を対象にして,地盤モデルを構築して地盤を可視化し,各都県の地盤工学的な特徴を明確にすることを方針とすることを説明し,参加者に理解を求めました。
(3) 関東地域の地盤モデルについて:WG1(地盤モデルWG)の副主査の大井昌弘氏((独)防災科学技術研究所)から説明して頂きました。この説明の中で,日本各地で実施されてきた地盤モデル化の概要,関東地方で先行的に実施された東京都のモデル化を例として,地層層序と地盤の性質分布を示して頂きました。また,地盤モデルは対象とする市域全体をモデル化するのではなく,比較的ボーリングデータの分布が密な地区に限り,例えば10km四方の範囲でモデル化が行われていること,成果は,全国電子地盤図の地盤モデル作成の活動の一環で,書籍に掲載するだけでなく,最終的には,Web公開されることが強調されました。
(4) 基調講演:このワークショップは,担当される都県の関係者に意見を聴収するだけではなく,講演を通して,担当地域以外の情報を把握して頂くために,基調講演を企画しました。第1回目のワークショップでは「地盤モデルと東京圏沿岸域の震災被害とその対策」と題して,副委員長の安田 進先生(東京電機大学)に30分という非常に限られた時間でありましたたが,東日本大震災により液状化の発生とその地層層状の関連について,東京,千葉の沿岸部の事例を中心に説明をしていただきました。
(5) 各都県の地質・地盤の概要の執筆方針と地盤モデル作成:第1回目のワークショップでは,東京都(竹村 貴人先生[日本大学・本委員会委員]),千葉県(畑中宗憲先生[千葉工業大学・委員会委員],山本 明夫氏[応用地質(株)・執筆委員]),埼玉県(八戸 昭一氏[埼玉県環境科学国際センター,執筆委員]),山梨県(後藤 聡先生[山梨大学,WG3主査],安藤 伸氏[応用地質(株),執筆委員])の四つの都県から,1) はじめに,2) 地形・地質概要,3) 地盤工学的特徴,4) 地盤災害の特徴と対策,5) 地盤モデルとその適用例,6) まとめを枠組みとした節の構成について,各都県の検討結果を説明していただくとともに,執筆内容の追加事項を他の参加者からの意見を聴収しました(図-2)。ワークショップを通して提供された話題を対象として,意見交換を実施して,書籍執筆に対して共通認識すべきことを議論しました。
(6) おわりに:関東地盤DB委員会副委員長の安田進先生から,ワークショップの総括を兼ねた挨拶をしていただき閉会しました。
図-3 龍岡委員長の挨拶(5月24日)
図-4 安原先生の基調講演後の安田先生からの質疑の様子(5月24日)
2.2 第2回ワークショップ
(1) はじめに~地盤情報データベースの意義と東日本大震災とその対応概説~:関東地盤DB委員会委員長龍岡 文夫先生(東京理科大学)が,第1回目のワークショップと同様に,地盤情報データベースの意義について,パブリックコメントを反映させた地盤工学会の「地震時における地盤災害の課題と対策 2011年東日本大震災の教訓と提言(第二次)」,(以下,第二次提言)との関連をもとに説明されました。「関東の地盤 2010年版」を出版したが,特にボーリング柱状図の数,地盤に関する記述,地盤モデルはより内容を充実させる必要があることを指摘され,「関東の地盤 2013年版」を第二版として出版する意義が改めて説明されました。第二次提言に関連づけて地盤情報は重要なものと位置付けているので,特に地盤情報は公のものとして,公開・共有されるべき情報との考えが示されました(図-3)。
(2) 新版「関東の地盤」の編集方針の概要:第1回ワークショップで頂いた意見を補足しながら,WG3から概要を清木の方から説明しました。基本的な執筆方針は,「関東の地盤 2010年版」と同様で,各県のボーリングデータを集約し,付録として添付しますが,大きな違いは,1) 地盤モデルと連携して執筆することと,2) 地盤モデルの成果を取り入れることであることを強調しました。
(3) 関東地域の地盤モデルについて:WG1の大井氏(防災科研,本委員会幹事)から,話題提供をして頂きました。地盤工学会が作成する地盤モデルは,全国統一の基準に基づいての作成を目指していることが説明されました。特にボーリング柱状図の電子データの公開が難しい場合,ボーリング柱状図から作成した地盤モデルが有効であることが補足されました。
(4) 基調講演:第2回目のワークショップも第1回目と同様に,担当される都県の関係者に意見を聴収するだけではなく,講演を通して,担当地域以外の情報を把握していただくために,基調講演を実施しました。第2回目のワークショップでは,「大震災が突き付けたいくつかの地盤工学的課題とその適応」と題して,安原 一哉先生(茨城大学名誉教授・委員会幹事)に話題提供をしていただきました。茨城県は東北地方に匹敵する位の津波,液状化,原発関連の複合的な被害に見舞われ,特に建物の一部損壊は,東北地方と同程度の軒数に昇ったことが強調されました(図-4)。
(5) 各都県の地質・地盤の概要の執筆方針と地盤モデル作成:第2回目のワークショップでは,第1回目のワークショップに続いて,神奈川県(荏本 孝久先生[神奈川大学・執筆委員]),茨城県(村上 哲先生[茨城大学・執筆委員]),群馬県(樋口 邦弘氏[(株)黒岩測量・執筆委員]),栃木県(西村 友良先生[足利工業大学・執筆委員])の四つの県について,書籍の執筆方針と地盤モデルの作成方針について情報提供をしていただきました。その後,第1回のワークショップの議論を引き継いで,書籍の執筆内容などについて,個々の県の地盤工学的特徴の扱いや全都県で統一する執筆内容について意見交換を行いました。
(6) おわりに:最後に,安田進先生(東京電機大学・本委員会副委員長)に全国電子地盤図が整理されてきた背景を補足して頂くとともに,他支部の規範となる良い書籍となるように執筆および地盤モデルの作成を行うことが確認されて閉会しました。
3.おわりに~ワークショップを行った成果とご協力のお願い~
関東地盤DB委員会で開催した2回のワークショップは,当初その効果は半信半疑のまま準備をすすめました。実際にこれらのワークショップを終えた今,関東地域8都県で共通で執筆しなければならない内容,各都県で個々に強調すべき方向性を明確にするとともに,本委員会の活動の成果として,関東の地盤(2010年度版)をより良いものとして2013年度版を出版する必要性について,個々の委員が再認識することができたことは最大の成果です。このワークショップで得られた意見を関東地域の地形・地質的特徴,地盤工学的な特徴を取りまとめや地盤モデルの構築に役立てられるように,今後の委員会活動をすすめて行きたいと思います。引き続き皆様方からのご意見を反映させて書籍出版を行いたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。 (文責:清木)
第1回新版「関東の地盤」 ワークショップ 平成24年4月27日 |
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【プログラム】 | ||
① 開会あいさつ |
司会:後藤 聡(山梨大学) |
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② はじめに~地盤情報データベースの意義と東日本大震災とその対応概説 |
龍岡文夫(東京理科大学) |
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③ 新版「関東の地盤」の編集方針の概要 |
清木隆文(宇都宮大学) |
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④ 関東地域の地盤モデルについて | 大井昌弘氏(独立行政法人防災科学技術研究所 | |
⑤ 基調講演「地盤モデルと東京圏沿岸域の震災被害とその対策」 | 安田 進(東京電機大学) | |
⑥ 東京都担当 | 竹村 貴人(日本大学) | |
⑦ 千葉県担当 | 畑中宗憲(千葉工業大学) | |
⑧ 山梨県担当 | 後藤 聡(山梨大学)安藤 伸(応用地質(株)) | |
⑨ 終わりのあいさつ安田 | 安田 進(東京電機大学) | |
第2回新版「関東の地盤」 ワークショップ 平成24年5月24日 |
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【プログラム】 | ||
① 開会あいさつ | 司会:後藤 聡(山梨大学) | |
② はじめに~地盤情報データベースの意義と東日本大震災とその対応概説 | 龍岡文夫(東京理科大学) | |
③ 新版「関東の地盤」の編集方針の概要 | 清木隆文(宇都宮大学) | |
④ 関東地域の地盤モデルについて | 大井昌弘(独立行政法人防災科学技術研究所) | |
⑤ 基調講演「大震災が突き付けたいくつかの地盤工学的課題とその適応」 | 安原 一哉(茨城大学) | |
⑥ 神奈川県担当 | 荏本 孝久(神奈川大学) | |
⑦ 茨城県担当 | 村上 哲(茨城大学) | |
⑧ 群馬県担当 | 樋口 邦弘(黒岩測量設計事務所) | |
⑨ 栃木県担当西村 | 西村 友良(足利工業大学) | |
⑩ 意見交換 | ||
⑪ おわりのあいさつ | 安田 進(東京電機大学) |