「栃木県 乙女大橋下部工建設現場見学会」 開催報告

関東支部 栃木県グループ
委員 河野 重範(栃木県立博物館)

 乙女大橋は、1955年度に栃木県小山市内を流れる思川に架設された。老朽化の進行などから、現在栃木県によって橋梁の架け替え工事が進められている。今回、栃木県グループでは、県栃木土木事務所の協力により、令和7(2025)年1月9日13時半から1時間半の予定で下部工建設現場の見学会を開催した。参加者は県内から27名であった。見学会の前半は、栃木土木事務所の増渕忍氏と丑越勝也氏から解説があり、下部工の建設現場の見学を行った。後半は、栃木県博の河野(本報告者)と布川嘉英氏から地下地質の解説、続いて掘削土から産する貝化石の採集と観察を行った。本報告では、これらの内容について述べたい。
 見学会の前半は、右岸側でA1橋台下部工掘削工事の様子を見学した。乙女大橋の橋台と橋脚は、地表から支持層までの深度が深いため、全周回転式オールケーシング工法を用いた場所打ち杭の工事が行われている。A1橋台における鋼製ケーシングチューブの長さは43m、直径は1.5mで、場所打ち杭の本数は9本とのことであった。見学時は、その内1本の掘削工事の開始直前で、現場には全周回転掘削機や100トンクローラークレーンが所定の位置に配置されており、ケーシングチューブ内部の土砂を排出するためのハンマーグラブも間近に見ることができた(写真-1)。参加者は、普段なかなか目にすることのない下部工掘削工事について、説明を興味深く聞いている様子であった。
 後半は、先に行われた同じA1橋台の場所打ち杭から排出された掘削土の置き場へ移動した。ここでは、河野から関東平野の地下地質の概要について説明を行った他、既に判明している乙女大橋付近の地下地質の特徴(深度15m前後と深度50m前後に貝化石の含有層が存在すること、深度26m付近にN値が急激に高くなる層準が認められることなど)の説明を行った。そして、これらの特徴から、栃木県内では地表露出が見られない約12万5千年前(MIS5e)の下総層群木下層と約24万年前(MIS7)の下総層群清川層に対比される可能性が高く、N値が急激に高くなる層準が両者の境界に当たると解釈されることを説明した。説明の後は、堆積物の観察や掘削土に多数含まれている貝化石の採集を行った(写真-2)。掘削深度から見て、今回の貝化石はすべて木下層産と判断される。主な産出化石は、二枚貝はマガキ、ハマグリ、サルボウガイ、マテガイ類、ハイガイなど、巻貝はアカニシ、バイガイ、ツメタガイ、イボウミニナなどであった。参加者は、童心に返ったように化石探しに熱中しており、ある参加者は大きさ10cm以上もある立派なアカニシを採集できて喜んでいた。また、見本として用意しておいた分類済みの本地点産の貝化石と比較し、その種類をメモしていく参加者もいた 。

写真-1 橋台下部工掘削工事の見学の様子 写真-2 掘削土に含まれる貝化石採集の様子