3.授業中の6年生と先生の様子
6年生の子供達は「液状化」の言葉を知っていた。興味津々で試みた“箸による砂粒釣り”に対しては,砂粒が釣れないことを確認するやいなや,容器に入れた砂に振動を与え,砂の密度を上げる子供や“液状化”の実演を身を乗り出して凝視する真剣な眼差しがあった。地中からマンホールが突如浮き上がる模型実験を見て,その理由を考える子供の態様,“受け盤より流れ盤の斜面が崩れ易い”説明をほとんどの6年生が理解したし,“土石流で流速が最大になるところは?”の質問に正解する感覚的な鋭さに驚く一幕もあった。
松山先生は,授業のKeyとなる内容をしきりにメモされていたし、キリスト教布教のためのカッパドキアの地下都市を,“我が国の江戸幕府の踏み絵と関係付けて子供たちにフォローする”との日浦先生の話も忘れられない。
4.後日届いた文集
子供達から思いがけない文集をお送り頂いた。出前授業に対する赤裸々な感想文で,まさに出前授業を評価する成績表であった。姿勢を正して読ませて頂いた。小学生の瑞々しい感覚と思いが迸る躍動感が随所に見られ,構成力や文章力にも驚いた。この文集は宝物として大切にさせて頂く。その文集の要約では子供たちの感性も伝わらないので,紙幅の許す範囲で,そのまま忠実に紹介させて頂く。
(S・Kさん)11月7日に中野北小学校に来て下さってありがとうございました。日本や外国に,色々な地層があることがわかりました。家に帰って,お父さんやお母さんに「こんな地層があるんだよ!!」とたくさん話しました。もし山道で地震があった時,どちらに逃げたらいいか分かりました。あと,層の中には,れきや砂・ドロがあることがわかりました。色んなことが知れてよかったです。また,中野北小学校に来てください。そして,またたくさん教えてください。
(K・Mさん)この間は来てくださってありがとうございました。地層を切りひらいたところの道で,どちらがわににげればいいかが分かりました。土砂くずれなどの時に大きな石が先頭にくることが分かりました。最初はどうして,大きな石が先頭なのだろうと思いました。でも先生が教えてくれたので,良く分かりました。地震が来た時に,しめっているところだと水が出てきて,かわいているところだと,たてものが少ししずんで,しっかりとしたところだと大丈夫だということが分かりました。わりばしで,砂の入った容器をつれるかという実験もやっておもしろかったです。本当にありがとうございました。
(K・Yさん)こないだは,とてもおもしろい実験をしたりしてとても楽しかったです。ななめの地層とかのできかたを教えてくれてありがとうございます。どしゃくずれの時どちらににげればいいかがしれて,よかったです。砂をもち上げる実験がとてもおもしろかったです。地しんの実験もとてもすごかったです。地層の写真とかみられてとてもおもしろかったです。とても楽しかったです。
(T・Aさん)11月7日は,6年1組にきてくださってありがとうございました。地層実験などおしえてくださりとても楽しい授業でした。私は,先生からおしえてもらった地しんが来た時にどっちににげるかを大人になったらおもいだしたいなと思いました。本当に楽しい授業でした。まだ色々なことを聞きたかったけれど,とても楽しい授業をうけられたのでとても楽しかったです。ありがとうございました。
(K・Sさん)11月7日金曜日に理科をおしえてくれてありがとうございました。私は一番じしんの実験がおもしろかったです。いろんな土の上にたてものをおいてコンコンとやったら,しずんだりかたむいたりしたので地層によって違うんだなと思いました。すなとわりばしで,わりばしを上にあげても、ようきとすなが上にあがってくるやつもおもしろかったです。私は全然できなかったけど練習したらできました。また北小に来てください。
(T・Kさん)11月7日は6年1組に地層の事など教えてくれてありがとうございました。私は色々な向きをしている地層があると知って,びっくりしました。実験では,砂からわりばしが取れなくて,自分がやった時はどうなっているのか全然分かりませんでした。それで,なんでそうなったか教えてもらったら,それで出来るんだと思いました。でも,その後やったらなぜか出来なかったのでえ?と思ったりもしました。3つのカップに入った土をたたくと車が動いたり,どの土ががんじょうなのかなどもよく分かりました。地層の曲がった写真などすごかったです。色々なことが分かって良かったです。ありがとうございました。
(S・Mさん)金曜日は地層やえきじょう化のことを教えてくれてありがとうございました。ぼくが一番楽しかったのは,砂とわりばしの実験です。あとビルの実験もたのしかったです。地層が斜めになっていることや石の種類もおもしろかったです。とても勉強になりました。本当にありがとうございました。
5.おわりに
出前授業を終えて教室を出掛けた時,松山先生から小学校建設時のボーリングのコア試料の解説を求められた。土丹層の存在や礫の形状から,堆積の時代やその環境,N値の意味,採用されたであろう基礎形式,地盤の圧密や支持力特性に関する所感を述べさせて頂いた。良好な支持地盤であることを認識された二人の先生の,子供達の安全を守る教育者としての安心感に満ちた笑顔に見送られて校庭を後にした。
地震や降雨災害等の被災地に入ると,自身や人間の無力さに苛まれる。そして,少しの地盤工学的知識とそれに基づく行動があれば安否を分けたり,救命に繋がったであろう事例に接することがある。子供達を含む一般の方に地盤災害に対する啓発教育の必要性の思いを強くしている。この度の出前授業がそのような“啓発教育に繋がっているのか?”と自問している。一方で,今回の授業が,将来これらの子供達から技術者や自然科学者が誕生するきっかけになれば,自身にとって夢の出来事であるとも考えている。授業中の子供達の意欲や態度,文集は,この期待を彷彿させるものであった。
本稿の写真は,日浦先生と松山先生が撮影されたものである。また,出前授業の様子は同校のホームページ4)にも大きく掲載されている。出前授業の機会を与えて頂いた中野北小学校とご支援を頂いた地盤工学会の関係各位に深甚の謝意を表する。
参考文献
1)藤井幸泰:横須賀海軍施設内イベント「アースデー環境フェア」への出展報告,地盤工学会関東支部,ニューズレター, No.25, 2013.
2)藤井幸泰:横須賀海軍施設内イベント「アースデー環境フェア」への出展報告,地盤工学会関東支部,ニューズレター, No.29, 2014.
3)正垣孝晴:技術者に必要な地盤災害と対策の知識,鹿島出版会,148p,2013.
4)http://hachioji-school.ed.jp/swas/index.php?id=nkkte&frame=weblog&type=1&column_id=235032&category_id=734(“中野北小学校”と検索すれば、このアドレスが出る)
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