(独)水資源開発機構思川(南摩ダム)開発事業および栃木県板荷引田トンネル建設工事の現場見学会実施報告

                      地盤工学会関東支部栃木県グループ

1.はじめに
栃木県グループでは,平成26年度の現場見学会を独立行政法人 水資源開発機構思川開発建設所と栃木県鹿沼土木事務所の協力を得て,思川(南摩ダム)開発事業と板荷引田トンネル建設工事を一般社団法人 栃木県地質調査業協会との共催で,7月29日に見学させて頂きました。当日は,好天に恵まれ,県内外から27名の参加者を得て,無事終了しました。
2.思川(南摩ダム)開発事業の現場見学
 参加者は,栃木県鹿沼市口粟野にある独立行政法人 水資源開発機構思川開発建設所に集合した後,同建設所の会議室で,思川(おもいがわ)開発事業の概要と事業の現状について,星野副所長,引地参事から説明を受けました(写真-1)。
思川開発事業は,水害防止,利水,環境保全などの多目的な水資源開発を行うため,昭和44年に実施計画が立てられ,その後に計画を変更しつつ,現在に至っています。この間ダムの構造形式が,遮水層をダム中央に設ける土質遮水壁型ロックフィルダムから,表面にコンクリートスラブを打設し,止水する表面遮水壁型ロックフィルダムへの変更が加えられました。これによって,上流側のダム堤体の勾配を急にすることが可能となり,堤体盛立て量を減らし,工事量の低減を図ることができるなどが説明されました。
なお,現在の計画では,利根川水系渡良瀬川支川思川の上流部南摩川に,ダムの高さ86.5 m,総貯水量5千百万m3の南摩ダムを建設し,同じく思川支川の黒川と大芦川に設けた各取水放流工と南摩ダムを約7 kmの導水路で結ぶことになっています。これらの河川の集水地域から水をダムに貯めるとともに,黒川,大芦川の水が不足するときは,逆送して水を融通し合う非常に珍しい建設事業現場と言えます。
概要説明を受けた後,現場見学に向かいその移動中,地域の歴史,地形と地質,河川について説明をして頂きました。

    

    

はじめに,完成済の仮排水路トンネルを県道沿いに下流側から見せて頂いた後,南摩ダム貯水池の予定地が一望できるダムサイト左岸展望台へと上がりました(写真-2,写真-3)。付替県道,高架橋梁などは周辺と馴染む色合いで塗られるなど,景観にも配慮された造りとなっていました(写真-4)。
 展望台で,これまで行われてきた工事と,この先建設される予定のダム堤体の位置関係などを実感することができ,参加者から,コンクリート遮水工などに関する質問が寄せられていました。
 その後,地盤工学会の現場見学会に適し,岩盤斜面の観察できる岩盤斜面が観察できる付替県道粟沢7区工事の切通し及び多数アンカー式補強土壁工の施工現場を見学させて頂きました(写真-5,写真-6)。南摩ダム周辺は,足尾山地に位置し,中・古生層の代表的な堆積岩であるチャートや頁岩が分布しており,掘削法面や露頭では,チャートの褶曲,傾斜などの状況を観察することができました。
一方,環境面では,小段排水の側溝には,小動物や昆虫が落ちたとしても這い上がれるように,小さな粗面を持つスロープ(環境側溝)が施され,環境への細かい配慮が行われていることが伺われました。
3.栃木県板荷引田トンネル建設工事の現場見学
思川開発事業の現場見学の後,栃木県鹿沼土木事務所のお力添えで,板荷引田(いたがひきた)トンネルの建設現場を見学させて頂きました(写真-7)。はじめに概要説明をして頂き,徒歩で,トンネル坑口に移動しました。このトンネルは板荷地区と引田地区を結ぶ全長703 mで,大成・生駒・猪俣JVによって建設がすすめられています。この工事は,本年6月に起工し,トンネル本体を掘削しはじめたばかりでした。この地域の地山は,砂岩と互層をなす頁岩層,砂岩と泥岩の互層からなっており,各所の比較的軟質で,せん断された岩盤を含む破砕された数か所の岩盤帯も掘削する予定となっています。このトンネルは国土交通省岩盤分類D等級の比較的軟らかい岩質の部分は,上半先進ベンチカット工法,それ以外の比較的岩質が良いC等級の岩盤は,補助ベンチ付全断面掘削工法で,いずれも発破による掘削を行うNATM工法で片押しの掘削で建設されています。7月29日現在で,起点坑口から34mの地点までの掘削されていました。一回の掘削のスパンが1.2mから1.3mとのことでしたが,現場は,まだ比較的軟らかい地山の切羽で鏡吹付された状況をトンネル坑口から見学しました(写真-8,写真-9)。JV所長 奥野大造様が,わざわざ各種施工機械を学生などの参加者の視点にたって説明くださり,参加した学生の皆さんは目を輝かしていました。また,地盤工学会の企画した現場見学ということによるご配慮で,本社から地質技術者を呼んでくださり,掘削した代表的な地質のサンプルとして,互層になっている砂岩と泥岩のサンプルの特徴を地質的な背景も含めて説明してくださいました。また,岩検ハンマーを参加者に貸し出してくださり,泥岩が比較的軟らかく,砂岩がハンマーなしでは砕けない程硬いことを直接確認する機会を与えてくださいました(写真-10)。今後本格的なトンネル掘削が行われるにあたり,地質の変化と支保の対応が興味深いです。
この説明を受けた後,(独)水資源開発機構思川開発建設所に戻り,今回の現場見学会を終了し,解散しました。

         

4.おわりに
本年,栃木県グループでは,(独)水資源開発機構思川(南摩ダム)開発事業および栃木県鹿沼土木事務所管轄の板荷引田トンネル建設工事2つの現場を見学させて頂きました。県内外から多数の参加者を得て,無事終えることができました。現場見学の実施につきまして,ご尽力頂きました(独)水資源開発機構思川建設所の副所長 星野 徹様,工事課参事 引地隆久様,栃木県鹿沼土木事務所整備部整備第一課課長 細田征男様,副主幹田崎 聡様に記して御礼申し上げます。
文責 清木