地盤工学会出前授業「千葉県立市川東高校」開催報告

 関東支部 企画総務グループ
埼玉大学地圏科学研究センター 桑野二郎

1.はじめに
 2011年11月30日に千葉県立市川東高等学校で地盤工学会出前授業を行った。これは同校の地学担当教員から地盤工学会本部へ申込みがあり、関東支部が担当したものである。「地震と液状化について」という申し込みであったため、出前授業担当者である桑野が軽い気持ちで引き受けた。液状化に関するパワーポイントを用いた授業や一般向け講演の経験はあるため、準備は簡単だろうと考えたからである。しかし高校側と事前にメールで打合せをしたところ、可能ならば実験をやって欲しいという要望があり、状況が一変した。一応これで飯を食っている以上、「出来ません」とは言えない。
2.事前準備
 「液状化の実験」ということで思い浮かぶのは当然振動台実験である。ただし高校へ出かけて行うのであるから、必要なものは持ち込むか先方で用意してもらうしかない。もちろん振動台など期待できないが、手押しの台車ならばあるだろうから、それに乗せて揺すろうと考えた。土槽として最初に思いついたのは水槽であるが、高校の金魚を追い出す訳にはいかないし予行演習をしたかったので持参することとした。軽くて透明で割れにくい適当な大きさのものはないかと近所のホームセンターをうろうろしたところ、食品保管用の密閉できる大型のプラスチック製のものが見つかった。液状化層厚はなるべくあった方が良いだろうと考え深型の物を約1500円で購入。うろうろしている際に、フィルムケースを半分の長さにしたくらいの、小型で中が見える広口のプラスチック密閉容器を発見し、1つ約70円の物を4つ購入。小型密閉容器の一つには十円玉を詰めて重い構造物を模擬しようとしたが、思いの外沢山必要だったので諦め、ネジを250円分ほど購入し、合計約2000円で準備完了。早速大学で予備実験を行ってみた。
4つの小型容器のうち3つには、空気、水、乾燥砂を入れて埋設し、1つにはネジを充填し地表に置くこととした。砂は重いので、高校で砂場の砂を用意してもらうつもりであった。どういう砂になるか分からなかったため、予備実験では最初、あえて粒径約2~3mmの細礫を使ってみたが、予想通り透水性が高すぎ沈下して表面に水が浮くだけで十分な液状化はせずあえなく失敗した。仮に液状化が上手く生じなくても、なぜそうなったかを考えてみる事はそれ自体面白い話であるが、話が少々高度になることと、講義時間に余裕がないこと、それと何と言っても実験を成功させたかったので、豊浦砂を事前に送付する事にした。豊浦砂についてももちろん予備実験を行い、上手くいくことを確認するとともに、台車は最初からあまり激しく揺すると全体が一瞬で液状化してグチャグチャになるため、小さな振動を与えた方が良いことも分かった。
 さて、振動台実験の目処は立ったが、振動台実験を見るだけではなく、生徒さん達に土が固くなる様子(液状化と逆のプロセス)を体感して欲しくなった。普段当たり前のように身の回りにある砂が、実は粒々の集まりであり、吹けば飛ぶようなばらばらなものなのに、実際には地盤を構成し構造物を支えられるということを実感できる方法はないかと考えてみた。思いついたのは、三軸試験で砂供試体を自立させる方法、即ち供試体内部に負圧を作用させて大気圧で正の拘束圧を与え、砂を硬くするというものである。キャップやペデスタルをいくつも持参できないし、もちろん真空ポンプも無い。試しにビニール袋に砂を入れ、先端をティッシュで塞いだストローで空気を吸いだしてみたところ、見事に砂が立った。これならばいくつも配布し、自分でやって砂が硬くなることを実感してもらえる。「うーん、でもちょっと地味だなあ」ということで、大規模実験もやってみることにした。大きなビニール袋に砂を入れ、掃除機で吸って固め、上に人を立たせようというものである。これも予め実験室でベトナム人留学生を使って試してみたところ、無事に立てることを確認した(大分怖がっていたが)。これで準備完了。
3.当日
 当日は、実験の準備などを行うため、授業時間の1時間近く前に高校へ向かった。行ってみるといくつか予想外のことがあった。まずプロジェクターが結構古く、パワーポイントをあまり鮮明に見せられない。また、全てを賄うだけの豊浦砂を送るのは大変だったので、液状化実験以外は学校の砂場の砂を使うつもりで、バケツ一杯分の砂を乾かして用意するようにお願いしてあったのだが、砂がかなり湿った状態であった。湿っていると固まりやすいので、負圧で固まるのがちょっと分かりにくくなる。大学の実験室では乾燥炉を使うが、確かに置いておくだけでは豊浦砂のような細砂はなかなか乾かない。砂場の砂も思いのほか細かく、簡単には乾かなかったようである。大ビニール袋実験はやむを得ないが、小ビニール袋実験は豊浦砂を少し取り分けて使うことにし、予め班の数だけ砂を入れたビニール袋を用意した。さらに、大ビニール袋には砂場の砂を入れ、不織布で先を塞いだ掃除機の吸い込みを挿入し、袋の口を縛り準備完了。また、液状化実験に関しては、時間節約のため、容器に途中まで砂を入れておいた。ここで授業開始時刻となり、生徒達が地学教室にやって来た。
受講生は地学選択の2年生21人と先生が3人の合計24人であった。7~8割は女子生徒であった。まずは、彼らにとっては初めて見る怪しいオジサンである自分の簡単な自己紹介を行った。以前タイのアジア工科大学に勤務していたことから、まずは2011年10月の洪水時のキャンパスの写真を紹介し、さらに趣味のサッカーや山登りの話をした。これから大人になる若者に、オジサンになっても実は結構色々と楽しいよと伝えたかったのと、少しは雰囲気が和めばいいなと考えた次第である。次に、高校2年生ということで、進路を考える時期ではないかと思い、工学や地盤工学について簡単に説明した。
さて、いよいよ本題の液状化に関する授業である。最初に液状化とは何かについて簡単に説明した後、早速実験を行った。まず振動台実験の準備を行った。空気、水、乾燥砂、ネジ、が詰まった4つの小容器を、まずは水が入った容器に入れ、どれが沈み、どれが浮くかを見せた。次に砂地盤が液状化したら、地表に置いたネジは沈むが、砂地盤中に埋めた、空気、水、乾燥砂のどれが浮いてくるか予想させ、浮くと思うものに手を挙げさせた。空気には手が結構挙がったが、乾燥砂には手は挙がらなかった。実は授業後に先生から伺って初めて分かったのだが、地学選択の生徒は物理を受講することは少なく、密度や浮力というのはあまりピンとこなかったようで、生徒達にした質問は少々空回りしていた。さて、そのあと実際に3つを砂に埋め、ネジは地表に設置した。地盤を飽和させるため、容器を流しに移動させ、水道の水を細く出し、地盤の隅から水を注いで地盤が下から水で満たされるようにした。
地盤が水で満たされるには多少時間がかかるため、その間を使ってビニール袋実験を行った。予め数人に1つ配っておいた砂の入った小ビニール袋に刺したストローを吸って、砂が固くなる様子を体験してもらった。生徒達は結構わいわいとやっていたが、あまり上手くいかないグループがあり、地学担当の年配の男の先生が「どれ貸してみろ」と仰ってやってみせ、「出来るじゃないか。ほらやってみろ。」と女子生徒に返したところ、「えーっ、間接キッス~!」という予想外の反応があった。そうか、女子生徒がいる時は、こういうことに気を付けないといけないのか、と新鮮な驚きがあった。
次に、大ビニール袋実験を行った。バケツを型枠に掃除機で吸って大きな砂の塊を作り、人を立たせようというのである。皆によく見えるよう砂の塊を机の上に乗せ、さりげなくやせっぽちの男子生徒を指名して砂の上に立たせた。ところがこの生徒、最初は片足で立とうとするので、「バカっ、応力が集中して壊れるではないか!」と内心毒づきながらも、「両足で立った方が安定するんじゃないかなあ」と言葉巧みに誘導して、無事実験は成功した。地盤が物を支える様子を実感してもらえたようであった。
そうこうしているうちに、模型砂地盤が水で満たされたので、液状化実験に移った。机の上の台車に容器を乗せ、その台車を細かく揺すったところ、ネジはあっという間に沈み、それから、空気、水、乾燥砂の順番に3つとも浮き上がった。無事実験成功である。目の前で液状化を見て、ちょっと「おーっ」という感じになった。
ここで実験が終わり、パワーポイントを使った話に戻ったのであるが、50分の授業時間を既にかなり使ってしまっていて、液状化被害事例などをざっと見せるにとどまった。地学選択の生徒達だったので、微地形と液状化被害の関係などについてももう少し話したかったが、時間切れとなってしまった。生徒達はそれなりに楽しそうにしていたので、これで良しとして、授業を終わった。
4.最後に
 後日、担当の先生から、授業に関するアンケート結果と生徒のコメントを送っていただいた。授業の内容や実験については、分かりやすかった、面白かった、と多くの生徒が答えてくれ、ちょっとホッとした。感想として、「掃除機を使った実験が分かりやすく面白かった。」、「液状化であんなにフィルムケ-スが出てくるとは思わなかったので驚きました。」、「今回は液状化についてだったけど、楽しく授業を受けることができた。また機会があれば大学の先生の授業を受けてみたい。」など、まずまずの反応であった。「先生の授業も面白かったけど、それ以上に先生がとても面白い人でした!!」というコメントもあった。ムムム。液状化という話題を通して、粒々の集まりである土という材料の面白さを感じてもらえれば良いな、と思っていたが、その目標はある程度達成できたのではないかと思う。高校へ出向いて授業を行うというのは初めてであったが、準備の段階であれこれ考えて工夫をしてみるのは結構楽しく、また生徒達の生の反応も面白く、良い経験となった。

   

      写真1 生徒のビニール袋実験の様子         写真2 大ビニール袋実験の様子

写真3 熱心に授業に聞き入る生徒達