書籍「関東の地盤」及び地盤情報データベースに関する講習会 実施報告

関東地域における地盤情報データベースの運用と活用検討委員会

委員兼幹事 宇都宮大学 清木 隆文

1.はじめに

 書籍「関東の地盤 地盤情報データベース付(2010年度版)」が平成22年11月19日に発刊されました。この機会に合わせて,関東地域における地盤情報データベースの運用と活用検討委員会では,会員サービスグループと共催で,講習会を平成22年12月17日に地盤工学会地下会議室で開催しました。今回の講習会は,関東支部の研究委員会が支部の主催で実施したはじめての試みとなりました。この講習会を開催することは,書籍の発刊に合わせて,本年度の当初から決まっていましたが,発刊が延期となり,周囲への周知が書籍発刊決定後1ヶ月余の短い期間となったこと,準備も急務であったこともあり,一時期開催が危ぶまれました。幸いにも当日,30名の参加者があり,講習会を無事終えることができました。

 

図‐1 龍岡委員長のあいさつ風景          図‐2 中山氏の講演風景

2.講習内容について
講習会のはじめに,龍岡文夫委員長の方から,書籍「関東の地盤」を出版するに至った経緯について,2006年度から2年間活動を行った関東地域における地盤情報データベースの構築と公開検討委員会の活動内容も紹介も合わせて説明が行われました(図‐1)。近年は,国土交通省や地方自治体が,データベースをWeb公開する方向にあるので,重複しないように方針を変更し,社会へのアウトリーチ活動の一環として関東地方の地盤に関する解説書「関東の地盤」を出版することになったこと,この書籍に基礎的な資料であるボーリング柱状図や室内土質試験結果などの数値情報も原資料として,閲覧可能なデータベース(DB)としてDVDに収録し,その解説書と位置づけたことが説明された.また,今回発刊した書籍は,地盤情報データベースや地盤モデルを説明するものとしては,第一歩を踏み出したばかりで,さらに委員会活動を継続して,収集データを増やし,地盤情報データベースをより使いやすいものとして,関東地域の地盤モデルが提供できるようにより良いものにするとの決意を表明されました。
その後,清木 (宇都宮大学)から,書籍の執筆,編集の経緯について報告しました。また,これとともに,本書籍を専門書として,一般書籍と同様に広く流通させるために,ISBN番号,JANコードを付与し,丸善から協力を得た内容などを含めた出版までの歩みを説明しました。
この後,書籍中の「関東地方の地質概説」の章を執筆されました木村克己幹事((独) 産業技術総合研究所)から,関東地方全域の地質に関する最近の知見について,特に第四紀の地質に特化して説明が行われました。まず日本列島の成り立ちについて説明され,近年では地震の震源分布の研究などから,日本海北部にもプレート境界があることが推定されているとの最新の知見が説明されました。また,関東地方の地盤と付加体の関係,プレート境界との関連など,地盤工学会ではめったに聞くことのできない地質の専門家からみた関東地方の地盤についての見解を聞くことができました。
次に,東京都の地盤,千葉県の地盤,神奈川県の地盤を執筆者に各都県の地盤の特徴について,概要説明をお願いしました。この講習会で,できれば関東地方の地盤を執筆された各執筆者に説明して頂きたったのですが,時間の関係からこれらの地域に絞って説明していただきました。なお,講演者の時間的都合の関係から,以下の順番で説明していただきました。
千葉県の地盤は,2名の執筆者を代表して,畑中宗憲委員(千葉工業大学)に説明をしていただきました。ここでは,千葉県の地形・地盤の概要,千葉県の自然災害と地盤,千葉県の地盤沈下を主に説明され,千葉県で独自に発達した井戸掘削方法である上総掘りと下総台地の関係,斜面災害,地震による噴砂,液状化について具体的に検討された事例を紹介されました。
東京都の地盤は,中山俊雄様(元東京都土木技術研究所)に,説明していただきました(図-2)。ここでは,東京都独自に行われた地盤調査,資源調査,地盤沈下調査,人工地震調査などをもとにした東京都の地盤の特徴と,地盤沈下の関連,メタンガスとの関連などを斜面崩壊の自然災害の話題も織り交ぜながら,話していただきました。
休憩をはさみ,神奈川県の地盤は,荏本孝久先生(神奈川大学工学部)に説明していただきました。神奈川県グループは,書籍関東の地盤が発刊されるのに先立ち,地盤工学会関東支部から「大いなる神奈川の地盤」を発刊されており,この書籍を取りまとめる際に得られた知見も織り交ぜながら,神奈川県の地勢,地質と災害との関連,特に東南海地震の発生が懸念されていることにより,想定される地盤災害と地盤の関連性について説明されました。
続いて,地盤情報DBの利用と活用方法と題して,王寺秀介幹事(中央開発(株))に,書籍「関東の地盤」の付録として収められている地盤情報DBDVDのデータ収集から,DBを構築するまでの経緯,地盤情報DBに収められているデータのデータ形式とその内容,地盤情報DBのPCへのインストール環境,方法について説明していただきました。また,具体的に地盤情報DBの使用方法からその活用について,実際に地盤情報DBDVDのデモンストレーションを行いながら説明していただきました。
最後に,ジオ・ステーションによる地盤情報データベースの連携と題して,大井昌弘幹事 ((独) 防災科学技術研究所)に,科学技術振興調整費「統合化地下構造データベースの構築」での活動内容,全国的な地盤情報データベースの現状として「全国電子地盤図」の概要,海外の地盤情報データベースの整備状況について説明していただきました。
その後フロアーの講習会参加者から質疑を受けつけました。フロアーからは,ソフトウェアーを利用した地盤モデルの構築方法に関する質問のように実務的な質問から,地盤情報データベースシステムをパッケージとした海外との連携の可能性,地方におけるデータ公開の状況とあり方,地盤情報データベースの発展と実務関わり方など,多岐にわたる質問があり,地盤情報データベースへの聴講者の意識の高さが伺われました。
最後,今後の本委員会がとりまとめた地盤情報データベースの更新と地盤モデルの構築への関わりについて意志を表明して,講習会を終了しました。
3.おわりに
書籍「関東の地盤 地盤情報データベース付 (2010年度版)」の発刊に合わせて,今回実際に執筆をしていただいた方を中心にした講習会を開催しました。質疑応答などで頂いた意見をもとに,より充実した地盤情報データベースの構築を目指してゆきたいと思います。
参加して頂いた方に,本講習会に関するアンケートを配布・回答して頂いた結果,講習内容については,難易度も適当で,配布資料がカラーであったことも良いと,説明方法も合わせて,概ね満足して頂けたようでした。一方で,講習内容の統一性,関東他地域の地盤情報の聴講希望や説明内容の濃さの割に時間が短すぎたこと,データベースの操作の簡易にすることなどのコメントをいただきました。特に,データベースデータの充実を希望するコメントが目立ちました。頂いたコメントの内容を大切に受け止め,新規の委員会の活動につなげられるように今後心がけたいと思います。

謝辞:本講習会を短い準備期間で開催するにあたり,支部事務局の多大なる支援と支部会員サービスグループのご協力に感謝いたします。記して御礼申し上げます。