地盤工学会関東支部の皆様、このたび3年間の任期で支部長の職を務めることになりました東畑です。皆様とともに職務に邁進し、実を挙げたいと存じますので、ご支援やご意見をよろしくお願いいたします。
さて、学会の存在意義、会員にとっての価値は、個人と団体を問わず、社会的地位(respect)や資質を向上させる場であること、と存じます。もちろん技術・学術の向上という大きな話題もありますが、それも含めて支部は地位と資質の向上に注力したいと考えます。すると具体的にはどのような手段があり、すでに何がなされており、今後さらに何をすべきなのでしょう?
支部ではすでに多様な活動が展開されていて、ここですべてを取り上げることは不可能です。それでも、年に一度の支部発表会は、個人のレベルで支部の存在を実感していただける機会であり、これについて触れないわけにはまいりません。支部発表会と全国大会とで内容が重複する、全国大会と雑誌等への寄稿にも重複するから時間の無駄!という感想も聞いたことがありますが、それは見方によって全然違ってくると考えてください。つまり、技術・学術の考究には終わりということがありません。現場の事例など常に新しい情報が入り、自分の中で考え方が進化していきます。それなのに進化が終わって内容が固まるまでは発表しない、そう考えていては、世間に知ってもらうタイミングは永遠に訪れないでしょう。「とりあえずここまで来ました、すごいでしょう」、これを繰り返しているうちにレベルが上がっていくものです。文章やパワポにまとめ、読んだり人前でしゃべっているうちに欠点に気づいたり新しい発想が湧いたりするのも、決して珍しいことではありません。このような自己向上プロセスの入り口として支部発表会をとらえていただければと存じます。支部の発表会は研究発表会ではありません。会員各位の腕自慢大会です。個人の実績を誇っていただくことが、地盤工学、建設工学全体の地位向上につながってまいります。
特別会員の方々にとって、学会の存在意義は何なのでしょうか?これは世界のあちこちで問われている事柄です。まず支部発表会は、特別会員さんにとっても業績自慢の機会です。発表会を活用して業績自慢が効果的に進むよう、発表時間や成果の対外発信スタイルを工夫いたします。また地盤工学という職業の社会的な地位向上は、大きな未達課題です。私は本部で地盤工学の社会的地位向上推進委員会の委員長を務め、下図のように英文和文で二つ報告が既にまとまっています。その結論を端的に申しますと、地盤工学には人類の幸福のために大きな貢献をしてきた事実がある、そして今後もそのポテンシャルが高い、しかし世間はそれを認識していない、その無知の故に世間は損をしています(ジオリスク)。すると支部としてはどのように対処すべきか、ということになりますが、社会全体に地盤技術に関する認識を共有してもらい、地盤工学者は技術を通して社会に貢献する、これに尽きると存じます。
日本語版報告書表紙 |
英語版報告書表紙 |
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小さいことを言いだせば立場によっていろいろな考え方があり、それらが相反することは不思議ではありません。しかし違った考え方にもそれなりの意味がある、それを知ることは重要なことです。たとえば自然の産物であって均質でもなく品質検査もされていないのが地盤です。したがって事業の実施に当たっては地盤調査を行うことが重要です。医師が手術に先立ち念入りに検査をされるのと同じです。これが調査に従事するエンジニアの考え方ですが、他方、発注者側には異なる意見が存在します。たとえば、社会保障、高齢者の医療、少子化対策など喫緊の課題が山積する中で、地盤調査に予算を支出することのコスパはどうなのか、広い視点に立てば、正確な調査よりも抜本的な軟弱地盤対策が見つかるのではないのか。これらの意見にも、もっともな理由があり、地盤調査者からしっかりした対応をすることには困難がありました。対応を志す会員各位には、上記委員会の報告書の内容を自由に使っていただけますが、それにも増して、日ごろから職種の違いを超えた相互理解が必要で、私はその実現に努めます。
最後に、新しい工夫について申し述べます。地盤にはまだまだ予想外の事態の発生することが多く、そのたびに社会を騒がせております。発生直後には社会的な関心も高く、報道に学界シニアの方が登場し、いろいろ意見をおっしゃっています。しかし報道では紙面にせよ放映にせよスペースの制約が厳しく、端的な結論しか社会に伝わりません。ここに学会が果たせる役割があるのではないでしょうか?問題となっている事象について、できれば異なる立場から意見を集めて発表いたしたい。あくまで個人的意見としての発表であることは、報道がご意見を引用するときと同じです。ただし学会の特徴は、1000字程度の詳しさがあること、異なる意見を平等にお示しすることにあります。意見発表は署名つき(内容への責任を表す)が基本ですが、いろいろなご事情のあるケースもあるでしょうから、あらかじめ匿名発表者リストを分野ごとに用意しておき、問題の発生後には直ちに対応することが大事と考えます。
それやこれやで思いつくことはたくさんあります。他団体とのコラボも重要です。私の特徴は、フットワークの軽さにあります。しかし他方では、事にあたってできない理由を一生懸命考えてしまうことがよくあります。それは頭脳と経験と時間の無駄遣いであって、まことにもったいないことと思います。代わりにどうすればよいのかと、代案を探すべきなのでしょう。ただし本当に注意しなくてはならないことを無視してはなりませんし、ときには撤退する勇気も必要でしょう。また私の思いつかない発想も当然たくさんあるはずです。その意味で、支部の方々とは頻繁に意見交換し、どうすれば困難を突破できるのか、という方向で相談させていただく所存です。3年間で関東支部がさらに発展し、今年の関東大震災100周年や来年の支部発足20周年がプラスの意義を持ちますことを祈念して、私の支部長就任のご挨拶といたします。