杭基礎は構造物を支持する基礎形式の中ではもっとも広く利用されているものであり、その歴史はローマ時代にまでさかのぼる。20世紀に入って地盤の工学にも近代化の潮流が激しく起こり、それと軌を一にして、在来の木杭に代わって鋼管や鉄筋コンクリートの杭が使用されるようになり、その設置方法も振動や騒音の激しい打撃貫入に加えて埋め込みや現場施工の技術も確立された。されに、現場試験の技術が発達し、杭基礎の挙動を実測することも難事ではなくなった。
このような技術の発展の結果、荷重載荷時の杭の挙動も予測が可能になり、性能設計のような高度な作業がルーチン的に行なわれるようになってきた。
以上のような高い水準は、単杭に関しては事実である。これに比して現実の大半を占める群杭では、杭中間の地盤と杭本体との相互作用、杭同士の相互作用、特に横荷重下でのこれら相互作用、地盤流動の杭間すりぬけなど、実務上は簡単な設計定数で処理はされているものの、実際の現象を深く追求した事例がほとんど無い。
また、杭という基礎形式は建築と土木両方の分野で広く利用されている基礎構造でありながら、教育体系が別々であることに影響されてか、両分野の技術者同士の交流、情報交換が十分とは言い切れない。そのような状況は、近年深まっているようにも感じられる。地盤と構造物の相互作用、という観点からすれば杭に関する諸現象は全く同根である。したがって両分野で情報交換を緊密に行い、お互い良いところを吸収してそれぞれの発展を期することは有益であり、それこそが地盤工学会設立本来の目的にも適うことである。
そこで本研究委員会では土木と建築、さらに農村工学、応用地質学など多くの分野で杭基礎の実態に興味を持つ技術者を集め、特に学問的知見と真実の探求が不十分と思われる群杭を研究対象とし、実験や実測に基づく実証的な研究作業を展開する。模型実験は東京大学の工学系研究科社会基盤学専攻の実験施設において行い、必要な装置は適宜製作する。それに要する費用は大学側で支弁するので、地盤工学会や委員会参加者に負担が生じることは無い。
研究の成果は群杭基礎の設計への具体的な提言として反映され、地盤工学会の社会的存在意義を示す具体的な証左となる。 |