かつて、地下水の大規模な汲み上げにより地盤が数メートルも沈下する広域地盤沈下の発生が大きな社会問題としてクローズアップされた時期があった。昭和46年に地下水規制に関する公害防止条例が施行され、それ以来、全面的に地下水の汲み上げが中止され、広域地盤沈下問題は社会的な関心から薄れ、現在では解決済みと世間では認識されている。
しかし最近のデータによると、著しい地下水位回復現象が起き、地中施設に対して設計値以上の揚圧力が作用していること、粘土層が吸水膨張して地盤隆起が起き、これが原因で地中施設に被害を及ぼす兆候等が、一部で認められ始めている。
著しい地下水位回復による揚圧力の増加と地盤隆起が広範囲に起きると、大都市の社会インフラを形成する鉄道網、道路網、上・下水道網、電力線網、通信網等の地中施設の安全性が徐々に損なわれることは必定であり、今後の社会の安全性と安心を確保する観点から、由々しい問題であると言える。
また、著しい揚圧力の増加と粘土層の著しい吸水膨張・地盤隆起現象は、地中施設に加え、あらゆる建造物の基礎工の安定性と安全性に影響を及ぼす恐れがあることは、地盤工学的に容易に予測される。
地盤隆起現象は、かつて猛烈に地下水を汲み上げた後に、それを中止し、数十年を経た東京・大阪・名古屋で主に確認されている。将来的には、同じ状況にあった地域でも同じ問題が生じるものと予想される。また、海外においても、かつて広域地盤沈下が生じた地域では同様のことが起きるはずである。
地盤隆起問題は地盤沈下問題に比べて、メカニズムの究明、予測手法、対策工法等に関してほとんで研究がなされていない。地盤隆起現象の先行地域に居る技術者が、これらのテーマに取組むことは、わが国を含めたグローバルな貢献に繋がるものと考える。 |