関西支部 谷 和夫
((独)防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センター)
2015年1月17日(土)に豊島区立千川中学校において出前授業を行った。
対象は1,2年生(各学年70名程度で合計143名)で,2&3校時(各50分間)が充てられていた。課題別学習教室の一環として現代社会の様々な課題を取り上げ,外部講師による複数の講座が提供される。生徒は,表1に示す7つの講座の中から興味・関心を持つ2つを事前に選択して受講する。開催日が1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の20年目に当たることから口座の1つに「地震」が設定され,昨年11月に(公社)地盤工学会に講師派遣の依頼があった。
講義日の10日前(1月7日)に学校を訪問して打ち合わせを行い,テーマは「地震による液状化現象等の地盤災害」とし,使用する教室も見せていただいた。また,「地震」に関する学習が1年生の理科で行われていることから,教科書の持参を依頼した。参加した生徒数は2回とも34名(多分,教室定員と同数)で,7講座に等分されると20名程度であることから,「地震」への関心は高かったと思われる。1年生が2/3程度と多く,男女はほぼ同数だった。
当日は30分前に学校に到着し,講師控室に案内された。講座毎に4つの机を合わせた7つの島が設えてあり,「地震」と表示された島で付き添いの担当教員と挨拶を交わした。周囲を見回すと他の島には複数名(講師チームか,助っ人か?)が座しており,他の組織の気合の入れ方に感心した。自分は気遣いが下手・苦手で単独の方が気楽なので気圧されることはないが,気持ちは引き締まった。
教科書をお借りした後に,パソコンの接続具合を確かめようと15分前に担当教員と教室に向かった。備え付けの大型ディスプレーのスイッチが入らず慌てたが,すぐに代替のディスプレーに取り換えて下さり,パソコンのスライドが映ることを確認して授業が無事スタートした(ビデオまでは確認する余裕はなかった)。
授業は,①阪神・淡路大震災,②地震による地盤災害,③日々の学習との関係の3部構成である。自己紹介も兼ねて①の導入としてE-ディフェンスで行った阪神・淡路大震災での地震動による木造住宅の倒壊実験の映像ビデオを見せようとしたところ,ディスプレーには表示されず,また慌ててしまった。パソコンのディスプレーを抱えて前方の生徒に見えるようにして,「教室の後ろの人は,授業後の休み時間に前に来て」と断って,その場は中断することなく凌いだ。
柳澤忠男先生(副校長)に撮影していただいた授業中の様子を写真に示す。
写真1は,液状化体験キットを用いて砂地盤の液状化を説明しているところである。このキットは,砂と水で満たしたカメラ用ブロアーに透明チューブを取り付けたもので,ブロアーを揉んだ際の触感の変化を体感してもらうと共にチューブ内の水位の上下も観察してもらう。まず,上下を反転して砂を沈澱させた後にブロアーを揉むと(緩く堆積した後に繰返し載荷すると),負のダイレイタンシーでブロアー内の体積がやや収縮してチューブ内の水位は上昇する共に,液状化により剛性が急激に低下する。次に,振動を加えて密にした状態でブロアーを揉むと(振動締固め後に繰返し載荷すると),正のダイレイタンシーでブロアー内の体積が膨張してチューブ内の水位は下降し,ブロアーが意外なほどに硬いことを体感することができる。
写真2は,3名の2年生に黒板の前に出てきてもらい,傾斜の異なる3つの斜面上に置かれた物体に作用する力を矢印で図示してもらうところである。力のベクトル表示について教科書で解説した部分を軽く説明し,斜面の傾斜と物体の滑り落ちようとする力(重力と抗力の合力)の大きさの関係や,十分な大きさの摩擦力(せん断抵抗力)が発揮されれば力が釣り合って物体は斜面上に留まることを説明した。斜面の安定性評価や崩壊防止対策に,日頃の理科の学習の重要性を分かってもらうことを意図している。
この課題別学習教室は‘としま土曜公開授業’として地域住民も自由に参加ができる催しではあるが,生徒の保護者または学校関係者の数名が教室の後ろに出入りする程度であり,気にはならなかった。ビデオのトラブル解決のために休憩時間に視聴覚機器に詳しい先生方が応援に来て下さったりして,学校側も懸命に支援していただいた。生徒も礼儀正しく真面目に聞いてくれたので,気持ちよく話すことができた。学校との連絡・調整をしていただいた学会事務の青木美智子さまを初め,ご担当いただいた学校の先生方に,末筆ながら感謝いたします。
以上
土砂災害に関する講習会の会場写真
写真1:授業中の1コマ(砂地盤の液状化の概念を説明中) 写真2:授業中の1コマ(斜面の安定性評価の概念を説明中)