地盤を学ぶ 第8回地盤工学会関東支部栃木県グループ講演会実施報告

地盤工学会関東支部
栃木県グループ

1.はじめに
 平成25年1月18日(金)に,とちぎ男女共同参画センターホールにおいて,地盤工学会関東支部栃木県グループ主催で,第8回地盤工学会関東支部栃木県グループ講演会を開催しました。県内外から108名の方に参加して頂き,大盛況のうちに無事終えることができました。第7回までは講習会として開催していましたが,本年度は,実情に合わせるために,講演会として,装いも新たに「いま地盤技術者に求められること」と副題をつけて開催しました。
 はじめに,足利工業大学教授・関東支部評議員兼栃木県グループリーダー幹事 西村友良先生が校務の都合で欠席されましたので,その代理で清木の方から,主催者を代表して,本年度の栃木県グループの活動内容を紹介するとともに,今回の講演会の主旨として,地盤技術者に国際化および期待される技術の高度化が期待されることから,末岡会長,日下部前会長を講師としてお招きしたことを説明しました。
 その後,関東支部の評議員を務めて頂いております栃木県県土整備部長の熊倉 雄一様から県土整備部の東日本大震災以降の防災および減災への取り組みの紹介と,熊倉部長が入庁以来経験された現場を通してみた,地盤工学の重要性について,挨拶を兼ねてご披露頂きました(写真-1)。
2.地盤技術者に求められること~地盤品質判定士に関連して~
 前地盤工学会会長であり,現在,独立行政法人国立高等専門学校機構茨城工業高等専門学校で校長を務めて居られる日下部治先生に,地盤工学会を中心として設置がすすめられている地盤品質判定士の資格制度に関する話題も含めて,2011年東北地方太平洋沖地震以降,地盤に関する業務に携わる土木や地質など専門とする技術者に要求されはじめたことや,その対応についてご講演をして頂きました(写真-2)。日下部先生は,地盤技術者が学術分野として,基礎科学や応用力学のいくつもの分野にわたる総合的な学問体系に見識を持つことが必要であること,対象分野として社会環境の営み,生活環境の創造に貢献することに加えて,社会システム改善への貢献が望まれることを説明されました。また,地盤工学会の提言の概要を紹介され,この度の震災に伴う地盤災害が未対応の自然斜面,丘陵地帯の戸建て住宅,現行基準を満たさない既存土構造物に集中したことが総括され,社会システムを改善するために地盤に関連する一つの手段として,宅地や液状化などに関する法整備の必要性が説明されました。また,地盤工学の専門能力を生かして社会的説明責任を果たすために,地盤品質判定士の資格制度に関する準備について説明をして頂きました。最後に日下部先生から災害に強い国土づくりを行うために,(1)土木工学と建築学の新たな構築教育体系と技術者制度,(2)自然災害に対する国土安全度の指標化に関するご提案が行われました。日下部先生が提案された用件は,将来にわたり災害に強い国造りと国際化に関連して,非常に重要なポイントですので,さらなる議論が進められることを願います。聴講者(写真-3)の中から,地盤品質判定士に対する責任の重さに対する質問が出ました。この度の日下部先生のご講演の際,建築に携わる方の参加が少なかったのが少々残念に思われます。

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写真-1 栃木県県土整備部長・熊倉様によるご挨拶       写真-2 日下部先生によるご講演
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写真-3 参加者の聴講風景

3.国際プロジェクトと地盤工学技術者,その将来について ~ボスポラス海峡横断鉄道プロジェクトを例にして~
 地盤工学会会長の末岡 徹様が所属して居られる大成建設がJVを組織して建設されたトルコ共和国の国際プロジェクト,ボスポラス海峡横断鉄道プロジェクトをパワーポイントによる説明をして頂くとともに,短編のDVDによる工事概況を放映して頂きました(写真-4)。まず,現場は,トルコ共和国のイスタンブールを地形的に分断するボスポラス海峡のヨーロッパ側とアジア側を繋ぐために,また,イスタンブールの急激な人口増加慢性的な交通渋滞と環境問題を解決するための三番目のルートとして鉄道用の海底トンネルや地下駅が建設される背景が説明されました。このプロジェクトは,オスマントルコ時代にも設計図が描かれるなど,トルコ国民にとって150年来の念願のプロジェクトでした。末岡会長の方から,沈埋トンネル工法,TBM工法,NATM工法などを併用した工区の紹介,トルコ共和国が我が国同様に地震国であるので,海底に液状化対策を施したことが説明されました。また,イスタンブールは街全体が遺跡と言っても過言ではなく,土工を行うと遺跡が必ずと言って良いほど出るため,調査のために人力で掘削を行う必要があるなど,工程管理の大変さであることを紹介して頂きました。
 末岡会長は,「確実に」,「臨機応変に」,「慎重に」をキーワードにして,沈埋トンネルを設置する海底地盤の液状化対策など,今回のプロジェクトの工事を通して、配慮された事例をもとにして,地盤工学技術者として,工事の際に地盤に対して考慮するべきポイントを説明して下さいました。また,地盤工学技術者に贈るメッセージとして,インフラの需要は海外に多くあるが,日本国内とは事情が異なり,予想外のことが多々起こるので,少しのことで驚かないようにするなど,助言を頂きました。
4.おわりに
 講演会の最後に,地盤工学会関東支部評議員で栃木県地質調査業協会会長の山口 文芳様から,今回の講演会の総括が行われ,特に末岡会長,日下部先生に対して,ご多忙な中,貴重な話題を提供をして頂いた御礼が述べられて閉会されました(写真-5)。当日来場された方々に記述して頂いたアンケートの意見を拝見すると,良かった,あるいは概ね良かったという回答が殆どでした。また,アンケートに記載して頂いたコメントから,地盤品質判定士に対する期待の大きさ,他の国際プロジェクトの紹介への期待に加えて,講演会の時間が短かったことや配付資料に対する要望を頂きました。今回頂いたコメントを総括すると,今回の講演会参加者の地盤技術の高度化,国際化への興味の高さが伺われました。今回講演会の聴講者から頂いた意見を反映させて,栃木県グループの活動の改善に反映させるとともに,次年度の講演会実施の方向性を決める資料にさせて頂きたいと思います。                  (文責:清木)

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写真-4 末岡会長によるご講演    写真-5 山口評議員による閉会挨拶