第10回 地盤工学会関東支部栃木県グループ講演会
-栃木の火山は大丈夫か!! 火山防災への取り組み- 開催報告

関東支部 栃木県グループ
幹事・清木 隆文(宇都宮大学)

 1.はじめに
 栃木県グループは、毎年、現場見学会、講演会、勉強会を開催しています。本年度の講演会「地盤を学ぶ」は、10月16日(金)に、宇都宮東活動センターの大ホールにおいて、「第10回 地盤工学会関東支部栃木県グループ講演会 -栃木の火山は大丈夫か!! 火山防災への取り組み-」と題して,講演会を開催しました。栃木県は,那須岳,高原山,日光白根山などの活火山が山岳地に点在し,温泉地の恩恵を得られる一方で,火山噴火への備えが必要です。また,火山やこれらの周囲の地形は火山質土や火山砕屑物からなり,比較的脆いものもあります。このためゲリラ豪雨や地震などで,土砂災害を引き起こしやすい傾向があります。そこで火山地質や火山防災など3名の専門家に各専門の視点からの火山防災への取り組みを話題提供して頂きました(写真-1)。(公社)土木学会関東支部栃木会,(一社)栃木県地質調査業協会の共催を得て、(公財)とちぎ建設技術センター,(一社)栃木県建設業協会,(一社)栃木県建築士会,栃木県土木施工管理技士会,NPO栃木県防災士会,下野新聞の後援を得て開催しました。また、パネルディスカッションを通して,火山防災のあり方について意見交換を行いました(写真-2)。喜内様(栃木県グループ幹事,芙蓉地質(株)代表取締役)に司会を務めて頂き、まず、はじめに、西村友良先生(栃木県グループリーダー幹事,足利工業大学教授)に開会のあいさつをして頂きました。関東・東北地方土砂災害に対応して居られる大変ご多忙な中、65名の参加者を得て開催しました。
 2.話題提供
 講演(1) 日光・大谷川流域の地形特性と土砂災害 -特に寛文二年(1662)災害-:一般財団法人砂防フロンティア整備推進機構 技師長 井上 公夫 氏:井上様に、世界、日本国内の火山噴火の動向について、話題提供をして頂きました。栃木県では、国土交通省関東地方整備局日光砂防事務所が管理されている日光砂防堰堤がありますが、その中でも大規模な日向砂防ダムは満砂満砂状態で、9月に発生した関東・東北土砂災害の際の堆砂状況を心配されていました。これまで、この砂防堰堤があるおかげで、日光市内に第二次世界大戦後建設された小学校や県や国の出先事務所の安全が保障されている点、大変印象的でした。井上様がこれまで収集された土砂災害に関連した内容が記述された書籍の数々についてアンケートを行って話題提供を終えました。
 講演(2) 那須岳と日光白根山の噴火活動と火山防災:宇都宮大学名誉教授 中村 洋一 氏:栃木県内の那須岳と日光白根山などのハザードマップを構築される際の話を火山学者の立場から火山活動の歴史から、その防災に至るまで大変丁寧に説明して頂きました。火山の噴火を確率的に捉え、火山噴火の後に発生する火山噴出物の堆積や土砂災害の発生についてイベントツリーを整理して、ハザードマップを構築する様子を説明して頂きました。火山噴火は、地震などの発生エネルギーに比べて比較にならない程大きく、また、その被害が長期間にわたるので、注意が必要であることがわかりました。人々が危険なところに住み始めた結果、自然災害が増加傾向にあることから、防災教育が重要であることに言及されました。リアルタイムハザードマップなど、最近の動向が示されました。
 講演(3) 火山性土の工学的性質と土砂災害 -地震時を例にして- 宇都宮大学大学院工学研究科 准教授 海野 寿康 氏:地盤工学の立場から、火山噴出物の定義と分類、工学的な性質について、ご自身のご経験を交えながら、丁寧に説明して頂きました。火山噴出物は、特殊土に分類されますが、日本全国の40%を覆っているほど一般的な土で、保水性が高く、締固めを行いにくい材料で、細粒分が多いと液状化を起こす可能性のある材料であることが説明されました。栃木県内は多くこの土で覆われているので、地震時の対応に注意が必要であることが説明されました。
 3.パネルディスカッション
西村友良先生にコーディネーターを務めて頂き、3名の講師の先生にパネラーを務めて頂きました。まず、参加者から、特殊土に関する説明、液状化判定に関する試験の簡略化の方法など質問が行われ、ハザードマップ作製と土砂災害の関係、砂防の流木の対処方法など議論は多岐にわたりました。時間が限られている中で、大変有意義なネルディスカッションとなりました。
 4.おわりに
このたびの講演会は、これまでと趣向を変えて、パネルディスカッションを開催しました。会場との意見交換も行われ、例年になく有意義な講演会となりました。最後に山口様((一社)栃木県地質調査業協会会長)に閉会の挨拶を頂き、無事講演会を終えました。その後ニューイタヤで開催されました講師の先生を囲んでの意見交換会も有意義な場となりました。

写真-1 講演の様子 写真-2 パネルディスカッションの様子

 第10回地盤工学会栃木県グループ講演会(H27.10.16) アンケート集計

 Q1. 本日の講演会についてご感想をお聞かせください。
全体
件数
割合
 1 たいへん良かった
30
6
20%
 2 まずまずだった
30
19
63%
 3 期待ほどではなかった
30
3
10%
 4 期待はずれだった
30
1
3%
 5 その他
30
0
0%
 無回答
30
1
3%

・盛り沢山ではあるが、時間が短かった。
・1講演の時間をもう少し取ってもらえるとなお良かった。
・テーマをもっと狭く絞って、深くした方が良い。

Q2. 本日の現場見学会の中で、特に参考になったことをお聞かせ下さい。
(1)「日光・大谷川流域の地形特性と土砂災害 -特に寛文二年(1662)災害-」
  講師:一般財団法人砂防フロンティア整備推進機構 技師長 井上公夫
  ・歴史的な観点から見た災害防災など参考になった。
  ・火山の特性や、過去の状況を知ることができてよかった。
  ・海外の火山と栃木県の火山の状況について良くわかりました。
  ・自然災害を対象とした小説リストが良かった。
  ・日向砂防ダムが満砂状態。
  ・古い火山活動からの地形の変化等を知れた。
  ・噴火の歴史。
  ・色々な場所での災害など参考になった。
  ・写真を多く見せていただいた。
  ・日光の土砂災害があった事。
  ・ピナツボ山を例にした火山による災害の種類、火砕流、泥流(噴火後の災害)
  ・大谷川の災害状況や砂防工事による対応。
  ・日光地域・那須地域の火山災害の歴史は興味深かった。
(2)「那須岳と日光白根山の噴火活動と火山防災」
  講師:宇都宮大学名誉教授 中村洋一
  ・火山の災害状況や防災、減災について参考になった。
  ・もう少し時間をとって説明していただけるとありがたいです。
  ・火山防災に関する基礎情報を得ることができてよかった。
  ・火山防災マップの策定状況が良くわかりました。
  ・登山者の安全対策を聞きたかった。
  ・身近なものとして考えさせられた。
  ・110の活火山
  ・防災マップとイベントツリー、統計を含んだリスクマネジメントを行っていて、ハード面
   だけでなくソフト面での対策がより重要になる。
  ・ハザードマップ作成の苦労と重要性について勉強になった。
  ・リスク評価の重要性
  ・那須岳、ハザードマップにおいて1kmが生死の分かれ目となる点
  ・世界的に見ても火山災害による被害が多いことを知った。
  ・話がわかりづらい。
  ・リスク評価の話が出たので、できればもう少し詳しく聞きたかった。
  ・両火山の現状がわかった。
  ・活動状況がわかった。
  ・火山防災の現状についての知見が深まった。
  ・那須岳を例にして防災への取り組み、特にイベントツリーの考え方がよかった。
  ・火山のリスクマネジメントについてもっとお話をききたかった。
(3)「火山性土の工学的性質と土砂災害 -地震時を例にして-」
  講師:宇都宮大学大学院工学研究科 准教授 海野寿康
  ・火山質土が建設的に弱いことが分かった。
  ・それぞれの土の定義について参考になった。
  ・大変、ためになる話を聞けて良かった。
  ・火山噴出物の特性を、改めて知ることができた。
  ・関東ロームの特性。
  ・火山性土砂の基礎的な部分が良くわかりました。
  ・堆積土は液状化しないとされているが、盛土材として使用する場合の火山灰質土は
   液状化するとなるが、自然地盤ではどうなるのか。
  ・ロームの性質・特性について勉強になった。
  ・火山灰土の性質が分かり易かった。
  ・火山灰土とはなにか。
  ・火山灰土の工学的性質による高含水比や透水係数の低さから施工上の注意などを
   知れた。
  ・火山性土の特性が説明を伺って理解できた。
  ・火山性土の液状化の部分について。
  ・火山灰質土と地震の関係。
  ・火山灰土の特質について参考になった。
  ・火山灰土は弱いことを知った。
  ・火山灰の性質の特徴がよくわかった。
  ・流動性崩壊が多い。
  ・素粒土についての説明。
  ・火山灰を起源とする火山性土に関する工学的性質は勉強になった。
  ・地震災害との関係が高いことを改めて理解した。
  ・今回の鹿沼の土砂災害についても関連性について知りたかった。
(4)パネルディスカッション「~火山防災への取り組みや課題について~」
  ・課題に向けての取組みがいかに重要か知った。
  ・防災に関する新しい形や液状化の解釈がわかった。
  ・流木の問題はおおきい。
  ・火山災害は噴火だけではない後も続く流木の対策が必要なことがわかった。
  ・流木のインパクトが大きいのは勉強になった。
  ・リスクマネジメントの難しさを知ることができた。(うまくいった事例が少ない)
  ・砂防ダムの流木対策。
  ・ピナツボ火山等の事例(避難)
  ・リスク評価の話が聞けて参考になりました。
  ・火山以外の全体的な防災について説明があり、参考となった。
  ・砂防ダムについて、今後、流木等の影響を加味(地域の植栽)した考え方が必要になる。
  ・新しい砂防ダムの話。
  ・参考になる話が聞けました。
  ・火山灰土液状化対策

 Q3. 今後どのような行事を希望されますか?
全体
件数
割合
 1 講演会 ※1
32
10
31%
 2 勉強会 ※2
32
2
6%
 3 先進事例の発表・展示 ※3
32
10
31%
 4 基礎的な勉強会等 ※4
32
2
6%
 5 その他 ※5
32
1
3%
 無回答
32
7
22%

※1地震後の地盤の変性等について・液状化、藤岡付近 造盆地活動について ※2大規模土工、特殊工法の現場研修 ※3近年の事例を用いた発表 ※4若手向けの講習会など、土質工学 ※5山の日にちなんだイベント

 Q4. (公社)地盤工学会会員になることを検討されますか?
全体
件数
割合
 1 会員です
30
7
23%
 2 正会員(個人)になることを検討します
30
1
3%
 3 法人会員になることを検討します
30
6
20%
 4 その他
30
0
0%
 無回答
30
16
53%

Q5.地盤工学会関東支部栃木県グループに対するご意見又、今回の講習会でお気づきの点がありましたらお聞かせください。
・パネルディスカッション時は、写真などを用いたものにした方がわかりやすくなると感じた。
・参考となる講習です。参加者を集めましょう。
・講師が急ぎすぎ(時間不足)。3人は多い?
・各講演の持ち時間が短く、説明が早すぎ。
・参加者が少なく残念。
・次第をつけてくれるとありがたい。
・パネルディスカッションで適時質問を取り入れたのは、いい取り組みだと思う。