地盤を学ぶ 第7回地盤工学会関東支部栃木県グループ講習会実施報告

 地盤工学会関東支部栃木県グループ

1.はじめに
 平成23年12月16日(金)に、宇都宮市東市民活動センター2階のホールにおいて、地盤工学会関東支部栃木県グループ主催で、第7回地盤工学会関東支部栃木県グループ講習会を開催しました。県内から113名の方に参加して頂き、大盛況のうちに無事終えることができました。
 本講習会を開会するに先立ち東日本大震災で亡くなられた方の1万5千人あまりの方々の冥福をお祈りするために参加者全員で黙祷を捧げました。
 その後に足利工業大学教授・関東支部評議員兼栃木県グループリーダー幹事 西村友良先生から、開会に際して挨拶が厳かに行われ、この講習会の主旨として、龍岡先生から「地震時における地盤災害の課題と対策 ―2011年東日本大震災の教訓と提言―」に関する基調講演と栃木県内の地質について2名の講師から講演があることが紹介されました。また、東日本大震災に対する被害の甚大さ、失われた命の尊さが振り返られるとともに、地盤工学を今以上に発展させて、産官学挙げて減災への決意が示されました。
2.栃木県内の被災状況とその後
西村友良先生から、平成23年東北地方太平洋沖地震の概要と栃木県における地震動、栃木県の震災予測と液状化予測、栃木県内における液状化事例、造成宅地の震災、栃木県内における公共インフラの被害状況の報告が行われました(写真-1)。栃木県は、東北地方に比べて被害が少ないですが、4名の方が残念ながら亡くなり、その内2名が地盤災害に関連していることが報告されました。また、県内各所に被害が発生したことが報告されました。鬼怒川から東側の部分に道路や河川施設などの公共インフラの被害が集中する様子が示されました。また、内陸部であっても液状化現象が数か所で発生したことが説明されました。これらを説明するにあたり、マグニチュードと地震加速度の関連、液状化の起こる仕組みなどの解説も加えられ、聴衆にわかりやすく理解いただけるような工夫が各所にみられました。最後に今回の震災をへて提言として、社会基盤整備を専門とする技術者・計画者には、防災施設の構築とともにソフト面、環境保全を組み入れた社会基盤整備を提案する必要性があります。今後、わが国を襲うであろう巨大地震(東海、東南海、南海地震)へ備えるためにこれまでの基準や指針の再評価が求められる。そして、これらを実現するために、産官学が連携する必要性があることを発言されて報告を締めくくられました。

  

写真-1 西村先生による震災報告の様子

3.地震時における地盤災害の課題と対策 ―2011年東日本大震災の教訓と提言―
 地震発生後、4ヶ月あまりの間に龍岡文夫先生(写真-2)が中心となってまとめられた「地震時における地盤災害の課題と対策 2011年東日本大震災の教訓と提言(第一次)」の概要について解説が行われました。まずはじめに、「2009年地盤工学会提言 地震と豪雨による盛土・擁壁の被害と教訓」が今回の震災についても基本的に妥当であることが説明されました。一方で、不足しているあるいは弱いと考えられる項目として、地盤の液状化による被害(特に戸建て住宅)、巨大津波による被害と復旧・復興、広域の地盤沈降と地盤沈下とその対策および災害廃棄物、津波堆積物、塩害、放射能汚染土壌への対処が補われた内容が説明されました。ご講演の中では、「土構造物の耐震設計、耐震診断と耐震補強」や「地震動による盛土・擁壁の崩壊、補強土擁壁による強化復旧からの教訓、強化復旧の課題」についても事例が挙げられ、手振り身振りで構造物と地盤の関係などを表現しながら熱弁を振るわれました。説明の中で、盛土は、十分に締め固めて、排水施設をしっかりと設置し、十分な強度を持つように地盤改良をする必要があることが強調されました。また,締固めの管理は、現場管理では締固度の下限値をクリアーすることだけを考えるのではなく、平均値が適切な値となるようにすることが説明されました。河川氾濫や津波の越流に対応する堤防は、三面をコンクリート張りとするなどの補強は役に立たないので、補強土工をしっかりと行うべきであることを強調されました。特に今までの失敗事例の中には、行政、コンサル、ゼネコンでしっかりと施工以前の設計に対する管理体制が不十分な点もあるので、管理体制をしっかりとする必要があると特に強調されたことが印象的で、同様の過ちを犯さないようにと警鐘をならされました。また、熱心に聴き入る聴衆(写真-3)の中で,質疑も活発に行われ、河川堤防の裏込土の不適切材への対策や栃木県内の造成宅地の震災被害に対する今後の対応に対してなど、予定の時間を超えてまで、熱心に議論が交わされました。この際、この提言をまとめる委員会の幹事長を務めて居られる末岡徹様からも貴重なコメントを頂き、学会、行政などの被害対策への関わりについて改善への要望が出されました。

             

        写真-2 龍岡先生による講演の様子     写真-3 会場で熱心に聞き入る聴衆

4.宇都宮市中里原の地層露頭からわかる古環境について
 前2件の東日本大震災に関連した報告および基調講演の目的とは異なり、栃木県の地質に関する研究成果が宇都宮大学教育学部教授・日本火山学会理事 中村洋一先生、 (株)土質リサーチ 代表取締役・地盤工学会関東支部関東地域の火山由来地盤の災害事例研究と地域特性に関する研究委員会委員 大里重人様から宇都宮市中里原の地層露頭の調査結果について報告が行われました(写真-4)。遠藤邦彦先生(日本大学文理学部教授・第四紀学会会長)が講演を行われる予定でしたが、所用のため急きょ大里様に講演を代理でお願することになりました。
 この露頭は栃木県宇都宮市中里原の宅地造成現場(上河内都市計画事業 中里原土地区画整理事業)の切土斜面に現れた関東ローム層各種の層序についての調査経過が報告された。中村先生からは、火山学の専門家の視点から、火山堆積物と男体山の噴火時期の関連、他火山の噴火と関東ロームの成因との関連について話題提供が行われました。大里様からは、この露頭の地形の概要、各層から採取された細かな種子などの植物種子などが紹介されました。これらのサンプルから宇都宮市周辺の当時の気候を推定し、関東ローム層が堆積したころの気候は現在の宇都宮の気候よりもさらに寒い寒冷地であったことが報告されました。なお、この報告に関連して行われた調査の一部は、地域の火山由来地盤の災害事例研究と地域特性に関する研究委員会の活動の一環で行われたことを申し添えます。

  

写真-4 中村先生,大里様による講演の様子

5.おわりに
 報告会の最後に、地盤工学会関東支部評議員の佐藤節様から、3名の講師の先生にお礼が述べられ、講習会が閉じられました。当日来場された方々から頂いたアンケートの意見を拝見すると、震災に対する理解が深まるとともに、地盤工学の視点からの震災対策に対する理解の大切さを再認識された様子が伺われました。また、宇都宮市中里原の地層露頭についても火山噴火、当時の気候との関連が推定されたことに大きな意味を見出されたようでした。
 最後に、この講習会は、地盤工学会関東支部の多大なるご支援によって実施することができましたことをこの場を借りて御礼申し上げます。