地盤耐震工学に関する3日間集中セミナー報告

  東畑郁生

 

 地盤耐震工学に関する三日間のデスマッチ講習会は、予想を大幅に上回る18人の参加者を迎え、12月10日〜12日の3日間、地盤工学会館地下の会議室で開催された(写真1)。この講習会は筆者が今春Springer社から刊行したGeotechnical Earthquake Engineering(英文)をテキストとして用い、当該分野でこれまで何がわかって何がわかっていないのか、俯瞰的に理解することを目指したもので、総計688ページを通覧するために20時間のプログラムを計画した。この分野に或る程度の予備知識のある人々を参加者に想定し、初学の方には別途刊行した「地盤耐震工学入門」の利用と講習会への参加を期待していた。

 もとより我が国は地震国であり、明治以来数多くの技術が地震被害の軽減に開発されて来た。震度法による設計や物部岡部の地震時主働土圧理論がその例である。昭和になってからは共振法土質実験法が飯田博士によって発明されるなど実証的な潮流も生まれ、これが戦後の地盤技術の多様な発展につながった。土の動的性質や液状化特性に関するせん断実験や模型震動実験からも膨大な知識が得られ、それが設計法や動的解析の進歩にフィードバックされて来た。さらに、災害の実態は社会のあり方と共に変様していくので、頻発する災害からは絶えず、新たな技術課題が突きつけられて来た。

 以上のように、我が国の地盤耐震工学の歴史には無数の輝かしい事跡が結晶のように詰まっている。しかし遺憾にも、それを通覧する書籍が発行されて来なかった。その結果、最近になってこの分野で活動を始めた人々にとっては、詳しい知識を一挙に吸収する方途が無く(今さら30年前の学術論文のコピーを図書館行脚で集めては廻れない)、設計指針類の公式を丸覚えせざるを得なくなっている。なぜそのような公式ができたのか、なぜそのような地盤改良工法が成り立っているのか、背景を知らずしては、来たるべき時代の新しいタイプの災害に対して適格に対応してゆくことは不可能であろう。

 このたびの講習会で使用したテキストは、以上のような問題意識に基づいて筆者が1985年に執筆を開始したものである。地震のメカニズムから被害発生機構、土質試験、模型実験、現場調査、動的解析、危険度予測、性能設計、そして地震国における会話単語集までを一冊にまとめているのを特長としている。三日間で20時間の過酷な講習であり(G-CPDポイント20)、すんなり終わるわけはない、という予測からデスマッチ講習会と名付けたが、参加者の方々の肉体と精神力は予想以上に強靭で、19時間経ったところでまず筆者のノドが潰れ、大きな声が出なくなってしまった。その前週にオーストラリアで同様の講習会を18時間行ったこともあって筆者には苦しい行事であったが、参加者各位の熱意に励まされ、既往の知の集合を総体的に通覧する、という所期の目的は達せられた、と思っている。この講習会と同時に、テキストの著書も刊行後九ヵ月にして完売となり、筆者にとっては満足感を味わえる三日間であった。

    

写真1 講習会当日の状況